この4月に私は東京大学大学院医学系研究科消化管外科学教室から星薬科大学医療薬学研究室に異動した。異動してはや1カ月が経とうとしている。この、勤務先による雰囲気の違いには驚きを禁じえなかった。新しい職場では、多職種の方が皆、一貫して親切なことに驚いた。こちらからわからないことを伺わなくても、「初めてだからわからないであろう」と考えて、皆様から説明やアプローチがある。学内ツアーにてキャンパス内の利用できる場所や歴史ある場所なども、アドミッションオフィスの方からお誘いがあり、案内して頂いた。とても有意義であった。
なぜ、こんなに人々が親切なのかを考えた。星薬科大学の創立者である、 先生は「親切第一」をうたった。その伝統が綿々と受け継がれているということはあると思う。他人が親切にしてくれ、それが雰囲気として普通であれば、自分の心も穏やかになり、自分も他人に親切にできる。もちろん、この伝統は維持されているものと思われる。
ただ、もう1つ気づいたことがある。今までと違い、大学がそれなりに裕福であることである。私が使用することになったオフィスには家具はまだ何もなかったのだが、必要なものは大学が購入してくれるという。今までにはなかった待遇である。大学に収入をもたらすものは、研究費の間接経費があるが、これは今までいたところも新しいところも同じである。他の大きな違いは、学生さんからの学費である。今までいたところは国立大学であり、学生さんが納める学費は微々たるものである。ところが、今度は私立大学ゆえに、それなりの学費を学生さんが納めている。その代わりと言っては何だが、学生さんへの教育は最も重要視すべき職務である。毎日午後になると研究室にやってくる学生さんたちはとても真面目で可愛いものである。大学は本来、教育機関であり、こうあるべきと思う。そして、学費により潤った待遇により、教職員の心も豊かになっているのである。
こう考えると、国立大学がうまく運営できないのは当然のように思える。国立大学は安い学費にて学生が学べる場所である。私も国立大学出身である。しかし、この安さは教職員の節約や貧困の上に成り立つべきではなく、国からの補助金で補われるべきものである。ところが、運営費交付金は年々減少し、独立行政法人の名のもとに大学独自で収入を確保するような形になりつつある。これでは、儲けにはならない学問や、学生教育が衰退してもまったく不思議はない。優秀な学生や未来へつながる研究こそ、国がお金を出して大切に育てるべきものであると思う。
野村幸世(星薬科大学医療薬学教授)[大学の収入][学生教育]