編著: | 中山健夫(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授) |
---|---|
判型: | A5判 |
頁数: | 172頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2017年09月15日 |
ISBN: | 978-4-7849-4639-6 |
版数: | 1 |
付録: | - |
医療の現場では「患者は医療者の指示に従えばよい」という父権主義がいまだ根強く存在しています。しかし近年では「決めるのは患者自身である」という消費者主義も力を得つつあります。
それら対立するふたつの関係を解き、医療者と患者が協働して問題解決を目指す新たなアプローチとして注目を集めているのがシェアード・ディシジョンメイキング(SDM)です。臨床の場で患者・医療者の意思決定とその合意形成を同時に可能とする、医療における新しいコミュニケーションとして,関心が寄せられています。
本書ではSDMを行うための考え方や実例を丁寧に解説した、これまでにない「コミュニケーション本」となっております。一歩進んだ患者さんとのコミュニケーションスキルの実践のために必携の一冊です。
第1章SDM入門・総論
第2章SDMの具体的な方法
第3章SDM研究の概観
第4章意思決定支援ツール(ディシジョンエイド)の作成・活用
第5章臨床におけるSDM:多発性囊胞腎
第6章臨床におけるSDM:未破裂脳動脈瘤
第7章臨床における遺伝学的検査に向けたSDMを考える
コラム
「決めた」のは誰か?
ヘルスリテラシー・コミュニケーションとSDM ヘルスリテラシーとの関連
臨床におけるSDM:地域ケアとリハビリテーション
リハビリテーションとSDM
患者の語り〈ナラティブ〉のデータベース:ディペックス・ジャパンの取り組み
賢い患者になるために:COMLの活動 患者が自己決定するために不可欠なサポート
このたび,本書「これから始める! シェアード・ディシジョンメイキング 新しい医療のコミュニケーション」を刊行する運びとなりました。
シェアード・ディシジョンメイキング(shared decision-making:SDM)は,臨床の場で患者・医療者の意思決定とその合意形成を同時に可能とする,医療における新しいコミュニケーションとして,その意義と可能性に大きな関心が寄せられています。
私自身は2000年代初め, 根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)と診療ガイドラインの課題への取り組みを通し,欧米で診療ガイドラインの作成や,臨床での意思決定における患者さんの参加が積極的に議論され,その鍵となる考え方のひとつにSDMがあることを知り,大いに関心を持ちました。
それから15年余り,国内でもSDMへの期待は,医療者と患者さんの双方から,社会的な要請として着実に高まっています。SDMのめざすところは,異なる立場にいる医療者と患者が,共有する問題に向き合い,互いの立場・考え・価値観を少しずつ調整しながら,協力して調和できる解決策を探っていくことです。ハーバード大のマイケル・ポーター教授の提唱する「共有価値の創造(Creating Shared Value:CSV)」という言葉は,医療ではなくビジネスの世界で生まれたものですが,SDMをはじめとする患者と医療者の協働を考える上でも大いに示唆深く,重要な概念と感じています。
SDMを通して,複雑化した今日の健康・医療の諸課題に,患者と医療者が力を合わせることで生まれる共有価値は,困難と不確実性に対峙しようとする人間の新しい知恵となっていくのかもしれません。
本書の出版にあたり,大変ご多忙の中,貴重なご寄稿を頂いた著者の方々,編集面でも積極的にサポートしてくれた本分野院生でもある藤本修平先生,CSVという言葉をいち早く伝えてくれた本分野卒業生の戒田信賢さん(現・株式会社電通),貴重な機会を頂いた日本医事新報社,辛抱強く,そして,いつも笑顔で担当して下さった村上由佳さんにこの場をお借りして心より感謝を申し上げます。
本書がSDMに関心をもつ方々,そしてより良い医療に向けたSDMの議論と実践に役立つことを願い,序とさせていただきます。
2017年8月 中山健夫