今回の診療報酬改定は6年ぶりの医療、介護、障害福祉の同時改定であり、原材料を含む諸物価高騰、医療人材の確保が困難になってきたことに対して、賃上げによる処遇改善のために、診療報酬本体の0.88%上昇のうち大部分を充てることになりました。
多くの民間病院の医業収支は悪化しており、新型コロナ感染症への対応で大変だったこともあり、コロナ以前の外来、入院の患者数に戻ってきていない施設が多く、医業経営が厳しい環境に置かれている病院が数多くあると思われます。賃上げをしたくてもできなかった医療施設にとっては、職員は一安心かもしれませんが、経営者にとっては頭が痛い改定になっていると思われます。賃上げの計画書と実績報告が義務づけられていますので、職員への処遇改善が実施されていなければ、返還を求められます。
また、同時改定ということもあり、医療と介護、医療と障害福祉との機能分化と連携が数多く推し進められています。この点は患者さんや利用者さんにとっては良いことだと評価しています。
時代の流れに沿って、ICTやAIを用いたDXの取り組みも示されています。共通算定モジュールとして示された全国共通のレセプト請求ができるようになるためには、すべての医療機関に電子レセプトが配置されなければなりませんが、これにより請求漏れや返戻が減少し、医療事務の負荷が軽減します。改定のたびにベンダーに支払っていた費用もなくなるでしょう。保険証が今年12月2日に廃止されますので、マイナンバーカードによる本人確認は当然ですが、電子処方も余儀なくされます。電子カルテが普及することにより、3文書6情報の共有化によって診療密度が高まり、診療速度が早まることはすばらしいことですが、システムの導入や維持の費用は医療機関が相当負担しなければならないのはいかがなものかと思います。
今回も高度急性期、急性期、回復期、慢性期の施設基準の見直しがなされています。ICUではSOFAスコアが要件となり、宿日直許可を得た特定集中治療室管理料5、6が新設され、特定集中治療室遠隔支援加算が新設されたことは注目に値します。また、HCUでは、重症度、医療・看護必要度がICUと同様にⅡでの判定に変わります。急性期一般入院料1(7対1)の平均在院日数が18日から16日に短縮され、重症度、医療・看護必要度はA、C項目での評価となり、内科系重視の施設では立ち位置が厳しくなっています。今回新設された地域包括医療病棟が特定入院料ですので、その受け皿になるかもしれませんが、かなりハードルが高い算定基準になっており、移行するかどうかは慎重な経営判断が求められます。
今回新設された、急性期病棟のリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は多職種協働を評価するものであり、急性期リハビリテーション加算と合わせ、急性期病院は可能な限り算定して頂きたいと思います。また入院料通則で3項目が改定され、①栄養管理体制の基準の明確化、②人生の最終段階における適切な意思決定支援の指針の作成、③身体的拘束を最小化する体制の整備─が規定されました。体制整備や指針の作成をよろしくお願いします。
島 弘志(日本病院会副会長、社会医療法人天神会総病院長)