小林製薬株式会社の紅麹成分入りサプリメント「紅麹コレステヘルプ」の健康被害問題で、同社が遺族からの相談を受け、新たに76人の死者について摂取との因果関係を調査していることがわかったと報道されている1)。同社は厚生労働省が問い合わせをするまで、こうした事実を報告してこなかったことが問題視されている。6月13日の時点で、厚労省の確認に対し、同社はそれまでの報告死者数を5人から更新はないとしていたが、翌日、一転して調査中の死亡事例があると報告し、27日に、遺族から相談が寄せられた170人の死亡のうち、摂取を確認した76人について、サプリメントの摂取歴や死亡との因果関係を調べているとした。ただし、この中には、直接的な死因が肺炎や脳梗塞、がんなどの、これまで報告のあった死亡の典型例とは異なる人も含まれているという。
当初、この件をめぐっては、同社が腎障害の情報を把握してから、報告するまでに2カ月かかっていることが問題視されていたが、6月の記者会見では、患者に対する情報開示を進める方針を示していた。それにもかかわらず、死者数を5人と発表してから2カ月以上にわたり、それ以外の死者について一切報告してこなかったことは、重大な約束違反であり、厚労省が小林製薬に調査計画を立てさせ、進捗状況を管理するとしたことも当然である。
サプリメント摂取と死亡との因果関係も、確立しているわけではないが、製品から青カビ由来の天然化合物「プベルル酸」と、通常は入っていない2種の物質が確認されたことや、健康障害のほとんどで薬剤に起因することの多い腎病変「ファンコニー症候群」がみられたことから、当初から、不純物の混入による健康障害の可能性が高いとされてきた。したがって、この76人の死者については、この仮説に合うものがどのくらいいるのかの確認を優先すべきだろう。問題になっているのは腎病変による急死であり、慢性疾患であるがんなどの死亡とは機序が異なる。まず、急性腎障害での死亡の人数を把握し、先に報告された死者数に上乗せして報告すべきであろう。今回の問題は、同社が把握した死者数の報告や開示の約束違反に関するもので、76人の死亡の内訳が判明するまでは、因果関係が直接の論点とはなっていない。しかし、もともと5人の死亡であったものに76人の調査が加わったという事実は重く、サプリメント由来の死亡事例はかなり増加すると考えられる。
そもそも、サプリメントは健康食品という位置づけであり、薬剤ではない。サプリメントから得られるベネフィットは大きいとは言えず、それに比べると、健康障害のリスクは大きいと言えるかもしれない。「コレステヘルプ」に限らず、サプリメント摂取の意思決定において、この事例は示唆に富んでいると考える。
【文献】
1)読売オンライン公式サイト:「紅麹」サプリ、小林製薬が新たに76人の死者と摂取の因果関係調査.(2024年6月28日)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240628-OYT1T50161/
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[76人の死者][厚生労働省への報告]