2024年7月フランス・パリにて夏季オリンピックが開幕しました。紀元前の古代ギリシアを起源とする平和、そしてスポーツの祭典として、各国の熱戦や日本人選手の活躍でおおいに盛り上がりをみせています。ところで、オリンピック開幕前に、ある競技の日本人選手が、20歳未満での飲酒・喫煙という法令違反を指摘され、代表を辞退するというニュースがありました。
日本では、未成年について、飲酒は1922年に制定された「未成年者飲酒禁止法」により、喫煙は1900年に制定された「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」により禁止されており、社会として若者を飲酒・喫煙から守る法律の仕組みがありました。ここでいう成年は、1896年に民法が制定されて以来、20歳と定められてきました。ところが、2018年6月に民法の一部を改正する法律が成立し、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。この目的とは、18歳と19歳の若者が自らの判断によって人生を選択できる環境を整備し、積極的な社会参加を促し、社会を活力あるものにすることです。
一方、成年年齢は引き下げられたものの、20歳の年齢要件が維持されるものとして、飲酒・喫煙、勝馬投票券等の購入が残りました。因みに米国では、選挙権年齢が21歳から18歳に引き下げられたことに関連して、成年年齢も引き下げられました。しかし、いくつかの州でそれまで21歳であった飲酒・酒類購入年齢も18歳に引き下げたところ、若者の飲酒に付随する死傷者数が増えたため、飲酒・酒類購入年齢の再引き上げが論じられました。そして、1984年に飲酒・酒類購入年齢を21歳以上に定めるよう各州に求める連邦法「全米最低飲酒年齢法」が成立する、という経緯がありました1)。このように、成年年齢と飲酒・喫煙は、若者の健康・社会問題と密接な関係があると言えるでしょう。
さて、20歳未満の飲酒・喫煙とオリンピック辞退については様々な論点があり、ひとつの結論を導くことは困難です。しかし、医療の観点からみると、若者の健康問題に関わる重要な問題であることに間違いありません。今回の件について、まずは、若者の健康を守ること、アスリートとしてのパフォーマンスに留意すること、他の若年者へ悪影響を与えないこと、さらには、今回の元代表者への心のサポートを行い、将来の可能性を周りの大人が潰さないこと、が重要な視点であると思います。
【文献】
1) 法務省:法制審議会民法成年年齢部会第7回会議議事概要「諸外国における成年年齢等の調査結果」.(2008年9月9日)
松﨑尊信(国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)[飲酒][喫煙][20歳未満][成年年齢]