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【識者の眼】「赤穂市民病院医師書類送検から見えるもの」榎木英介

No.5235 (2024年08月24日発行) P.66

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2024-08-13

最終更新日: 2024-08-13

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医療事故が多発して、告発漫画がウェブに公開されるなど、大きな話題となった赤穂市民病院。先ごろ2件の医療事故について、事故を起こした脳外科医とその上司が書類送検された1)2)

SNSでは誤解されているが、書類送検は起訴とは違う。あくまで起訴するかしないかを判断する段階になったというだけであり、不起訴処分もありうる。そういう意味では、この段階で騒ぐ必要はないのだが、いろいろ考えさせられた。

私自身、かつてこの事故が起こった時期にこの病院の常勤医だった関係で、兵庫県警から事情聴取を受けた。そういう意味ではある種の当事者ではある。一方、この事故が発覚したときには既に常勤医は辞めており、その後の詳しい事情は知らない。そういう意味では部外者でもある。

こうした微妙な立場で考えてみると、今回の書類送検は、医療事故を当事者と上司のせいにして幕引きに向かうきっかけになるかもしれないと危惧している。

確かに様々な病院で医療事故を起こしているとされる医師に、ある種巻き込まれたと言えるかもしれない。しかし、この病院は医療事故調査を厚生労働省や同省がモデルにするWHOのドラフトに沿って行わなかった3)。事故の隠蔽、責任逃れに終始した印象がある。

そしてこの書類送検だ。悪かったのは事故を起こした当事者であり、それを止められなかった上司だ。自分たちはいわゆる医療事故の「リピーター医師」のために迷惑を被った……。そう思う職員が出るだろう。

しかし、それでは医療安全は達成されない。病院の対応に問題はなかったのか、どうすればよかったのか、自ら検証していない。確かに外部評価がされているが、事故の原因について、責任追及ではなく、医療安全のために自ら包み隠さず検証していない4)

今回の書類送検で幕引きを図るのではなく、医療安全のために病院がどう変わるのかを、元職員として見守っていきたい。リピーター医師に迷惑を被ったという認識のままでは、医療事故が再び起きる可能性がある。信頼回復はそれなしには成しえないことは、深く認識してほしい。

【文献】

1)産経新聞:〈独自〉医療事故で脳神経外科医2人を書類送検 赤穂市民病院、業過致傷疑い.(2024年7月22日)
https://www.sankei.com/article/20240722-MWTFBTXLBZJS7LH2U7JW2HOXY4/

2)赤穂民報:《市民病院医療事故多発》脳外科医2人を書類送検 業務上過失傷害容疑 病院は過失否定.(2024年6月1日)
https://www.ako-minpo.jp/news/18153.html

3)厚生労働省:医療事故調査制度について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html

4)赤穂市民病院:赤穂市民病院ガバナンス検証委員会報告書.
https://amh.ako.hyogo.jp/wp-content/uploads/2023/10/ae29d1447fabe7007ca7ac21e367e9d1.pdf

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[医療事故][医療安全]

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