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【識者の眼】「バイオシミラー安定供給のために、供給量の情報提供とあわせた納入価交渉が必要」坂巻弘之

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

登録日: 2024-09-05

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医療費の適正化と高額なバイオ医薬品への患者アクセスを確保するため、バイオシミラー(バイオ後続品、以下「BS」)の役割が重要視されている。2024年1月末までに、わが国では、先行品18品目に対して35銘柄のBSが薬価収載されている(一般名ベース)。しかし、既に販売中止となった品目も4品目存在する。BS普及における主な懸念点として、「安定供給」が様々な調査で指摘されている。実際、わが国においては、一部のBSで上市直後から限定出荷となった製品があるほか、上述のように販売中止した製品もあり、化学合成ジェネリックとは異なる理由で安定供給に対する不安感が払拭しきれていない。

BSの供給不足は、BS製品の大半が海外製であり、企業によっては製造のためのバイオ・リアクターの規模が小さく、日本市場を十分に賄う生産能力がないことや、日本向けの供給量が不足していることが原因のひとつである。また、BS間の激しい価格競争による市場実勢価格の低下も大きな問題であり、2回の薬価改定で上市時の薬価から半分になってしまう成分もめずらしくない状況である。その結果、一部の製品では、採算割れなどの商業的理由により市場から撤退していると考えられる。つまり、BSの供給不足の主な原因は、供給量の不足と行き過ぎた価格競争による薬価の下落であり、安定供給を確保するためには、採用する医療機関ごとの供給量の確約と適正な納入価格の確保が重要である。

欧州の多くの国でもBSの使用促進が取り組まれているが、英国では、国民保健サービス(National Health Service:NHS)がBSの利用を推進している。NHSの専門薬局サービス(Specialist Pharmacy Service:SPS)は、新たなBSの上市に合わせて、地域や医療機関、薬局に対してBS使用準備のための指針(グッドガバナンス)を提供している。この指針には、地域における対象患者を特定し、必要な量を継続的に供給できるよう、適切な価格設定と入手可能性を保証する契約枠組みの導入などが示されている。

日本においても、製造販売企業が限定的で供給力が安定しない一方で、限られた企業間での行き過ぎた価格競争がBSの供給不安につながっている現状をふまえ、英国の取り組みも参考に、流通と価格形成のあり方を見直すことが必要と考える。つまり、これまでの採用のような納入価だけでの交渉を改め、予想患者数に基づいた供給量の保証を含む新たな納入価交渉の枠組みを導入すべきである。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[バイオシミラー][安定供給]

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