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【識者の眼】「休み明けの仕事がつらい」松﨑尊信

松﨑尊信 (国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)

登録日: 2024-09-05

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今年も日本の夏は酷暑でした。暑さが身体にこたえますが、お盆期間などに休みをとって心身ともにリフレッシュされた先生も多いと思います。一方、休みが充実すればするほど、仕事がどんなに楽しくやりがいがあったとしても、休み明け仕事に行くのがつらい、と多少なりとも感じたり経験したりしたことがある先生もいらっしゃるのではないでしょうか。大人でもそうですから、夏休みなど長期休暇明けに体調を崩したり、学校に行きたくない、と考えてしまったりする子どもたちも少なくはないでしょう。そして中には、思い悩み、自殺に至るような深刻なケースも少なくありません。

18歳以下の自殺者数、学校の長期休業明けに増加

警察庁・厚生労働省の自殺統計によると、2023年の小中高校生の児童生徒の自殺者数は513人と過去2番目に多い件数となっており、2024年1〜5月の暫定値で182人(2023年1〜5月:186人)と依然高い数値となっています1)

18歳以下の自殺には、ある特徴があることが明らかとなっています。それは、学校の長期休業明けにかけて自殺者数が増加する傾向がある、という点です。過去約40年間の人口動態調査から内閣府が集計した日別自殺者数によると、夏休み明けの9月1日に児童生徒の自殺者が顕著に多くなっており、また、春休みやゴールデンウィーク等の連休など、学校の長期休業明け直後に自殺者が増える傾向があることも明らかとなっています2)

警察庁自殺統計原票データをもとに厚生労働省がまとめた児童生徒の自殺の原因・動機によると、「学校問題」が最も多く(261件)、ついで「健康問題」(147件)、「家庭問題」(116件)となっています。「学校問題」の内訳は、「学業不振」(65件)、「入試以外の進路に関する悩み」(53件)、「入試に関する悩み」(36件)と、約6割が学業不振、入試や進路に関する悩みでした3)。学校の長期休業明け直後は、児童生徒にとって生活環境等が大きくかわる契機になりやすく、大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすい、との指摘もあります。よって、家族は子どもたちを見守り小さな変化を見逃さないこと、学校関係者と連携しながら、きめ細やかな進路指導を行うことが重要です。

最近では、夏休み明けのこの時期、新聞などマスコミによる自殺対策キャンペーンをみかけるようになり、児童生徒の自殺問題について、社会で一定の理解が進んでいるようです。いまだ高止まりしている児童生徒の自殺者をゼロにするため、引き続き、家族、学校、地域住民や私たち医療関係者等の関係機関などが連携しながら、自殺予防に向けた取り組みをすすめ、社会全体で子どもたちの尊い命を救うという目標を達成していきましょう。

【文献】

1)文部科学省初等中等教育局児童生徒課長:6初児生第9号. 「児童生徒の自殺予防に係る取組について(通知)」.(令和6年7月12日)
https://www.mext.go.jp/content/20240712-mxt_jidou02-000037050-100.pdf

2)文部科学省: 18歳以下の日別自殺者数.
https://www.mext.go.jp/content/20240712-mxt_jidou02-000037050-001.pdf

3)文部科学省: 小中高校生の自殺の原因・動機.
https://www.mext.go.jp/content/20240712-mxt_jidou02-000037050-003.pdf

松﨑尊信(国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)[自殺][18歳以下][学校][長期休業明け]

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