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【識者の眼】「著名人が病気を公表するたびに感じること」大野 智

No.5240 (2024年09月28日発行) P.62

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2024-09-06

最終更新日: 2024-09-05

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先日、タレントの梅宮アンナさんが乳癌と診断されたことを公表した1)。跡を追うようにテレビ、週刊誌などで連日報道され、SNSでも話題になっている。その中には善意のつもりで代替療法を紹介したり、評論家のように「こうすればがんにならなかった」などと主張したりしているものも散見される。今回、このような行為に対する個人的な所感を述べたい。

■善意の押し売り

病気の人をなんとかしてあげたいと思う気持ちは誰にでもあると思う。しかし、善意のつもりで「この病院の評判がよい」「◯◯先生は手術の名医」などと情報提供したり、さらには「がんにはこの健康食品が効く」などと推奨したりすることは、本当に善意からきているものだろうか。ここで、折角、お勧めした情報を拒否された場合を想像してみてほしい。もし少しでもイラッとする可能性があるのであれば、それは善意ではなく「病気で苦しんでいる人に、手をさしのべてあげた自分」に陶酔し、承認欲求を満たすためだけの行為かもしれない。

これまでの調査で補完代替療法を利用しはじめたきっかけは「家族や友人からの勧め」が最も多いことがわかっている。患者の立場となった相手は、もしかすると人間関係を壊したくない思いから、利用せざるをえない状況になっているかもしれないことを想像してほしい。善意の押し売りは、患者を追い込み、時に暴力的なものにもなりうる。

■「たら・れば」の暴力性

以前、がんで亡くなった芸能人が代替療法を利用していたことがわかったときに、SNSやブログなどで、その判断・行為を非難する発信を数多くみた。さらには「手術をしていたら」「代替療法に手を出さなければ」と修正できない過去を非難しているものもあった。そのような人たちは「あやしい代替療法に患者が惑わされないように」との親切心からアドバイスしているつもりなのかもしれない。もしかすると正義感に駆られて、代替療法の危険性を声高に主張しているのかもしれない。しかし、代替療法を糾弾しても、この世からなくなることはない。それどころか、代替療法を否定する声が大きくなればなるほど、問題はアンダーグラウンド化してしまいかねない。

不安を抱えたままの状況で重大な意思決定をしなければならないとき、人はしばしば不合理な判断をしてしまうことがある。また、いったんは納得して決めたことでも、時間が経つと後悔してしまうことは誰しもあるであろう。そのような状況で、第三者がいわゆる「たら・れば」の発言をすることは、患者の心の傷口に塩を塗る行為になっているかもしれないことに気づいてほしい。

患者となった本人やその家族からすれば、第三者である私たちにできることは、病気の回復を願い、温かく見守ることのみである。梅宮アンナさんをはじめ、現在闘病中の多くの患者の回復を願って筆をおきたい。

【文献】

1)Anna Umemiya Instagram.(2024年8月13日)
https://www.instagram.com/p/C-nJ8lzP6kb/?hl=ja

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法(57)

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