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【識者の眼】「バイオシミラー・バイオ先行品の切り替えに明確な方針を示すべき」坂巻弘之

No.5243 (2024年10月19日発行) P.66

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

登録日: 2024-09-27

最終更新日: 2024-09-26

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2024年10月から後発品のある先発品(長期収載品)を処方した場合に、後発医薬品との差額の4分の1を患者から新たに徴収する選定療養制度が始まる。この制度の目的は、医療費の適正化と先発メーカーの長期収載品依存からの脱却とされるが、後発医薬品については、安定供給の問題もあり、制度の本格実施には試行錯誤が予想される。一方で、今回の制度改定においては、特許切れバイオ医薬品であるバイオシミラーに対する先行品(バイオ医薬品の長期収載品は、「先発品」と呼ばず、日本の制度では「先行品」と呼ぶ)については選定療養の対象外とされた。バイオ医薬品の選定療養導入については、今後の議論が見込まれており、既に選定療養の範囲に含めるべきとの意見も一部でみられている。今回の制度改定でも、医療上の必要性があると医師が判断した場合、具体的には、学会ガイドラインで先発品が推奨されている場合には、患者の負担は増えない。

バイオシミラーは、化学合成医薬品と異なり、先行品とまったく同じものではなく、先行品と「同等/同質」の製品として承認されている。欧米では、バイオシミラーと先行品の有効性・安全性に違いはなく、切り替え(スイッチ)は問題ないと規制当局が明確に示している。日本では切り替えに関する明確な方針がなく、学会でも「弱い推奨」にとどまっているものもある(ただし、「推奨しない」ではない)。このため、現行制度では、バイオ医薬品は、事実上、選定療養の対象とならない可能性もある。

バイオシミラーの「同等/同質」という概念が臨床的にどのような意味なのかがあいまいであるため、日本ではバイオシミラーへの切り替えに関して混乱が生じている。政府が医療費適正化の一環としてバイオシミラーの使用促進を進める中、先行品からの切り替えが推奨されない現状では、バイオシミラーの普及は進みにくい。実際、バイオシミラーへの変更可能な処方箋が発行されても、薬局での調剤時に医療機関に問い合わせるべきか迷う事例も多く発生している。

また、バイオシミラーの供給不足が問題となっており、欠品が発生した場合の対応があいまいである。既にバイオシミラーを使用している患者に対して先行品への切り替えが妥当かどうかの判断が難しく、他社バイオシミラーへの切り替えが問題になることもある。厚生労働省は医薬品不足の場合、企業に代替品の提示を求めているが、バイオシミラーの切り替えに関する具体的な方針がないため、企業から代替品の情報が提供されないケースもある(代替品が示されている場合でも、その根拠は不明確である)。

欧米諸国では、バイオシミラーと先行品間、他のバイオシミラー間の切り替えが問題ないことが実臨床データ(リアルワールドエビデンス)に基づいて示されている。日本でも、バイオシミラーの使用促進と選定療養化の議論を進めるためには、バイオシミラー・先行品間の切り替えについての明確な方針を示すことが求められる。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[バイオシミラー][切り替え][選定療養]

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