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【識者の眼】「他国におけるレカネマブの承認見送りと日本における高額療養費制度見直し」内田直樹

内田直樹 (医療法人すずらん会たろうクリニック院長)

登録日: 2025-03-18

最終更新日: 2025-03-18

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アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」がオーストラリアの規制当局TGAにより承認見送りとなった。TGAは、本剤の臨床試験データにおける有効性が限定的であり、安全性リスク〔特にアミロイド関連画像異常(ARIA)〕が懸念される点を理由に挙げている。他方、米国や日本では既に承認・保険適用されている。

また、日本の高額療養費制度の見直し議論が進められている。政府は、財政負担の増加に対応するため、2025年8月から高額療養費の自己負担限度額を平均約10%引き上げる方針を打ち出した。しかし、患者団体や医療関係者の反発を受け、石破首相は2025年3月に上限引き上げを見送ると発表した。財政負担の抑制と患者の負担軽減を両立する制度設計が求められている。

実際、高額な新薬が登場するたびに医療財政への圧力が強まる現状を考えると、制度の抜本的な見直しは避けられない。特に、費用対効果の低い薬剤が公的医療保険で広範に使用されることは、医療資源の最適な配分を阻害する要因となる。たとえば、欧州では費用対効果を厳格に評価し、一定の基準を満たさない薬剤は保険適用外とする仕組みが取り入れられている。レカネマブについても欧州医薬品庁(EMA)は、2024年7月に本剤の承認申請を一度拒否した。理由として、効果が限定的であり、安全性リスクが懸念される点が挙げられた。しかし、その後、製薬企業から再審査の要請があり、一定の条件下で承認されることとなった。具体的には、ApoE4遺伝子型を考慮した適応の限定や、安全性モニタリングを強化する条件が付されたという経緯である。

医療従事者がレカネマブのような高額薬剤を適切に使用するためには、診断の精度向上と適応の厳格化が不可欠である。アミロイドPET検査を含むバイオマーカー診断の普及により、適応対象を明確化し、治療の恩恵を受ける患者を慎重に選定する必要がある。また、費用対効果の観点から、患者負担と社会全体の負担のバランスをどのように取るべきかについても、医療従事者が積極的に関与し検討することが必要だと考える。

日本の医療制度では、費用対効果の低い薬剤の見直しを含めた総合的な改革が必要となっている。レカネマブのような高額薬剤についてだけでなく、湿布や軟膏などをOTC化して医療保険を使用しないようにするなどの検討も必要になるだろう。医療従事者としても、エビデンスに基づいた治療の価値を見きわめ、持続可能な医療制度の実現に向けた貢献が必要だと考える。

内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック院長)[費用対効果][レカネマブ高額療養費制度

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