No.5267 (2025年04月05日発行) P.54
二木 立 (日本福祉大学名誉教授)
登録日: 2025-03-21
最終更新日: 2025-03-21
石破茂首相は高額療養費制度の見直し方針で迷走を続けた結果、3月7日、方針全体を凍結し、2025年秋までに見直し内容を改めて検討すると表明しました。本稿では、厚生労働省(以下、「厚労省」)と首相がなぜ判断ミスを繰り返したのかを検討します。
まず、患者自己負担の大幅引き上げ方針を取りまとめた厚労省側の事情を検討します。
私は、厚労省が、2023年12月22日の岸田文雄内閣の2つの閣議決定「こども未来戦略」と「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について」(以下、「改革工程」)の具体化を強く求められていたことが一番大きいと思います。この点では、厚労省にも多少の同情の余地があります。
「こども未来戦略」は、総額で3.6兆円となるこども・子育て政策の財源について、「消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない」と明記し、これに代わる「歳出改革」として、「医療・介護制度改革を実現することを中心に取り組む」としました。
「改革工程」では、「2028年度までに実施について検討する取組」が列挙され、そのうち、歳出改革(削減)につながる医療制度改革として、以下の3種類の取り組みが書き込まれました。①「薬剤定額一部負担」、「薬剤の種類に応じた自己負担の設定」及び「市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」。②医療における「現役並み所得」の判断基準の見直し等について、検討を行う。③高額療養費制度の在り方について、賃金等の動向との整合性等の観点から、必要な見直しの検討を行う(記載順)。
これらは羅列されているだけで、優先順位は付けられていません。しかし、①の多くと②は法改正が必要であるため、厚労省はそれを避け、早くから、③にターゲットを絞り込んでいたようです。
前稿でも書いたように、「骨太方針2024」は高額療養費制度の見直しにはまったく触れていませんでした。厚労省はそれを「骨太方針」に盛り込むよう求めましたが、2024年9月の自民党総裁選とその後に予定されていた総選挙で「負担増」の議論を回避したい政権側の内諾を得られなかったそうです(『集中』2025年2月号、「朝日新聞」3月8日等)。
しかし、東京都医師会の3月11日記者会見「資料」に書かれているように、「高額療養費削減策から手をつけることは、国民皆保険制度の根幹であるセーフティーネットの崩壊に繋がりかねない」致命的な判断ミスだったと言えます。