株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

認知症徘徊、介護家族の負担を軽減する仕組みを [お茶の水だより]

No.4698 (2014年05月10日発行) P.11

登録日: 2014-05-10

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

▼2007年、愛知県大府市で、重度の認知症により徘徊していた91歳の男性が列車にはねられ死亡した。この事故を巡り、JR東海が振替輸送などに係る損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が4月24日、名古屋高裁であった。その判決内容は、男性の介護者だった妻に359万円の支払いを命じるものだった。
▼死亡した男性は、妻がうたた寝をしている間に外出して事故に遭った。このとき妻は、男性の徘徊防止のために設置していたセンサーの電源を切っており、判決はこの点について「配偶者として民法上の監督義務を怠った」と指摘している。
▼一審判決では、妻だけでなく神奈川県に住む長男にも責任を認め、計720万円の支払いを命じていた。判決が社会に与えた衝撃は大きく、「認知症の人と家族の会」が「一瞬の隙もなく見守ることは不可能。認知症の人の実態をまったく理解していない」との声明を出すなど批判が相次いだ。それに対し今回の判決は、長男の妻が男性の介護を手伝うために転居までしていたことを考慮し、長男への請求については棄却。JR東海に対しても事故防止に対する社会的責任を認定した。しかし、司法が認知症高齢者の介護家族の責任を認めた点に変わりはない。
▼徘徊症状を有する認知症の人は、自力歩行が可能であることから要介護度を低く評価されやすく、家族に在宅介護が求められるケースが多い。一方で、厚生労働省は医療・介護の提供場所を病院・施設から在宅へ移行を進めており、今後それに伴い認知症高齢者の介護および監督責任も家族へシフトしていくことは明白だ。介護家族に過度な負担がかからないようにするためには、地域行政と住民を巻き込んだ見守りの体制が必要不可欠となる。
▼警察庁によると、12年に徘徊の末に行方不明になった認知症の人は延べ9607人、うち359人の死亡が確認されているが、こうした事態を減らす取り組みは既に複数の自治体で始まっている。例えば千葉県松戸市では、行方が分からなくなった高齢者の情報を行政の防災無線で放送しており、13年度までの放送件数109件のうち全件が発見につながった。
▼ただ、地域の見守りですべての事故が防止できるわけではない。徘徊中の鉄道事故は今後も起こりうるものとして考える必要がある。民間の保険会社に働きかけて事故を想定した損害賠償保険を創設するなど、国には万一の場合にも介護家族の負担が軽減できるような仕組みづくりが求められる。

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top