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アルコール飲料と健康に関する近年の動向

No.4768 (2015年09月12日発行) P.60

神田秀幸 (島根大学医学部環境保健医学講座教授)

登録日: 2015-09-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

アルコール飲料は身近な嗜好品として,いにしえより人間生活に豊かさと潤いを与え,国民生活に深く浸透しています。一方,アルコール依存症や肝障害,慢性疾患への影響も無視できず,アルコールの持つ功罪両面をふまえた適正な利用が現在求められていると思います。アルコール健康障害対策基本法が2013年12月に成立,14年6月に施行されたことをふまえ,アルコール飲料と健康に関する近年の動向について,島根大学・神田秀幸先生のご教示をお願いします。
【質問者】
村上義孝:東邦大学医学部社会医学講座医療統計学分野 教授

【A】

わが国の習慣飲酒率の推移は,国民栄養調査および国民健康・栄養調査において,調査法変更の影響を除くと,男女ともに若干減少する時期はあるものの,おおむね大きく変わらない傾向にあります(文献1)。
長年の習慣飲酒は,高血圧・糖尿病などの生活習慣病をまねきやすく,臓器障害は肝臓のみならず消化器系や循環器系など全身に及びます。さらに,酒の席での暴言・暴力など,飲酒しない人が飲酒者から受ける害,アルコールハラスメントもアルコールの間接的な害として問題になっています。また,2010年のWHO総会で「アルコールの有害な使用を軽減するための世界戦略」が決議され,アルコール対策は世界的な動きになりつつあります。
それらの状況をふまえ,わが国では2013年12月に「アルコール健康障害対策基本法」が成立しました。この法律の概要として,まずアルコール健康障害を「不適切な飲酒(アルコール依存症その他の多量の飲酒,未成年者の飲酒,妊婦の飲酒等)の影響による心身の健康障害」と定めました。
ついで,アルコール健康障害対策に対して,国・地方自治体,酒類の製造販売を行う事業者,国民,医師等の責務を規定しました。医師その他の医療関係者の責務として,国や自治体の対策に協力し,アルコール健康障害の発生・進行・再発の防止に寄与するよう努めるとともに,アルコール健康障害に係る良質かつ適切な医療を行う努力義務が示されました。
そして,政府は法律施行後2年以内に国の基本計画を定めることとしています。その後,都道府県は,国の基本計画をもとに実情に即した推進計画を策定する予定となっています。
この法律に基づいた関連施策として,健康診断・保健指導においてアルコール健康障害の発見と飲酒についての指導が適切に行われるように求められます。また,プライマリケアの場面などにおける節酒あるいは断酒の指導など,アルコール健康障害にかかわる医療の充実も実施される方向にあります。このほか,広く国民に対して,学校や職場などでのアルコール関連問題に関する教育や学習の振興と知識の普及が展開されていく予定です。
今後,アルコール健康障害防止の動きは社会的に大きな広がりをみせていくと思われます。

【文献】


1) 神田秀幸:動脈硬化予防. 2014;12(4):5-10.

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