心因性非てんかん性発作(PNES)は「見せかけの難治てんかん」の鑑別疾患として重要な疾患群である
PNESの診断は,臨床経過,発作症状,脳波所見などから総合的に判断する。診断に迷う症例に限らず,積極的に長時間ビデオ脳波モニタリング検査を施行するのがよい
PNESの病状説明は,単なる診断告知ではなく,それ自体に治療効果がある。患者の背景に応じた適切な病状説明を心がける
PNESにおいては,認知行動療法などエビデンスレベルの高い治療法が存在する
心因性非てんかん性発作(psychogenic non-epileptic seizures:PNES)とは,「てんかん発作と似た症状を示すが,脳波所見やてんかんの根拠となるような臨床所見がなく,背景に心理学的要因が示唆される発作」と定義される。従来は「偽発作」「疑似発作」などの名称が使用されることもあったが,近年,「偽」「疑似」という言葉には,医療者側のネガティブな価値判断が含まれているという批判が強くなっている。同様の理由で「ヒステリー発作」という言葉も好ましくないとされ,これらの名称の使用は控えるべきと考えられている1)。PNESは単一の疾患ではなく,その背景は様々であり,精神医学的には転換性障害や解離性障害,身体表現性障害などに診断分類されるものから構成される疾患群である。
てんかんセンターに紹介される難治てんかんの15~30%,てんかん初診外来の5~20%がPNESという報告があり,失神発作と並んで頻度が高く,「見せかけの難治てんかん」の鑑別疾患として重要である1)。わが国での正確な疫学調査はないが,海外の報告によると人口10万人当たり2~33人と推測されている。これは,多発性硬化症や三叉神経痛に近い罹患率である2)。
このように,PNESは決して新しくも,めずらしくもない病態であるにもかかわらず,様々な面で我々てんかん専門医にとっても困難な疾患群である。
PNESの症状が初発してから診断までは,平均7年かかると報告されている3)。この間,患者の多くは適切な精神療法が施行されずに,本来不必要な抗てんかん薬で治療され,認知機能低下や眠気などの様々な副作用に悩み,QOLが低下する。英国の研究では,PNESの患者の78%においては,発作が30分以上持続し,28%の患者がICUに入院したことがあるという報告がある4)。このような患者に対して,抗てんかん薬による治療は無効であるため,全身麻酔・人工呼吸器管理となり長期入院となることも少なくない。
米国の研究では,PNESの確定診断前には難治てんかんと同様の医療コストがかかる(そして,PNESの適切な診断後には医療コストが8割減少する)と報告されている5)。
それでは,このような「見せかけの難治てんかん」であるPNESを適切に診断するにはどのようにしたらよいのだろうか。
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