軽度認知障害(MCI)は,認知機能が正常な状態と認知症との境界領域にあり,認知症との鑑別は日常生活機能の障害の有無により判断される
MCIの背景には,認知症の場合と同様に様々な疾患・病態がありうる
MCIの人の認知機能の転帰は,すべて認知症に移行するわけではなく,長くMCIにとどまる場合や,正常状態に回復する場合も多くある
認知症が専門でない一般臨床医が日常診療の中で軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)をどのように疑い診断するかについて述べていく。
認知機能が正常な状態と病的に異常な状態(認知症)とは厳密に一線で画されるものでなく,中間の境界状態がありうる。大まかな概念としてこの境界領域がMCIである(図1)。歴史的にはMCIなる語は1990年代に提唱され,当初「年齢相応以上の記銘力低下をきたしているが,ほかの認知機能は保たれ日常生活機能は障害されていない状態」1)と記銘力障害に重点が置かれ,将来的にアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)を発症する前段階との認識から定義された。
その後,認知機能障害は記銘力障害のみではないことが周知されるようになり,2003年にスウェーデンで開催されたInternational Working Group on Mild Cognitive Impairmentにおいて,MCIは記銘力障害を呈す健忘型MCIと,記銘力以外の認知機能障害を呈す非健忘型MCIの2つの病型に拡張された。さらに,そのほかの認知機能(言語,遂行機能,視空間認知など)の障害の有無によって4つのサブタイプに分類された(図2)2)。現在広く支持されているMCIの診断基準はないが,おおむね表1のような概念としてとらえられる。
最近行われた全国規模での認知症およびMCIの有病率調査によると,65歳以上の人口に対してMCI有病率は13%,MCI有病者数は約400万人(2012年)と推計され,推定認知症有病者数の462万人にほぼ匹敵する数字である3)。
図3は当院神経内科の物忘れ外来初診患者(2011〜13年)の診断名別分類である。MCIの診断を下される受診者の割合は当院では30%ほどであった。この数字は,物忘れ外来のある施設の特徴により違いはあろうが,最近では徐々に増加傾向にある。
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