この度日本医事新報社のご企画である「消化管エコー動画読影トレーニング」の監修を仰せつかりました。今一度企画タイトルをご覧下さい,「消化器」ではなく「消化管」,つまり胃腸のエコーです。ガスが多く,曲がりくねった消化管を体外式超音波(要は普通のエコーです)で見ようとすること自体がマトモな医師のすることではない,そもそも見えるわけがない,と考えられていた時代もありましたが,絶えざる機器の改良と国内外での知見の蓄積に伴い,消化管はしだいに超音波の立派な対象臓器としての市民権を得てきました。消化管エコーの利点としては前処置が不要,侵襲がない,簡便,装置も小さく普及度も高い,といった一般的なものに加え,他のモダリティを凌駕する高分解な画像とリアルタイム性が挙げられます。日常臨床においては特に急性腹症の診断において非常に有用であり,最近では炎症性腸疾患の活動性モニタリングの手段としても注目されています。
そんな消化管エコーですが,特に本邦の消化管診療においては広く活用されているとは言えません。CTがどこでも容易に撮像でき,即座に放射線専門医が読影して下さるというわが国の特殊性もありますが,CT以上の診断だって可能!というのが少なくとも私の考えです。一方でエコーの欠点のひとつとして,画像の描出範囲が狭く,一断面では今一つ全体像がつかみにくいことが挙げられます。その欠点を補うべく,本連載では動画を供覧することに致しました。これにより消化管の蠕動やカラードプラの拍動性なども表現できるようになり,ライブ感と説得力の増した画像をご覧頂けます。「QRコード? 面倒そうだな~」と思っておられる先生,案ずるより産むが易し,実に簡単かつ一瞬で動画をご覧頂けます。是非お試しあれ!
本連載では比較的頻回に遭遇する症例を選別し,執筆陣には実際に日々の臨床で消化管エコーを活用されている医師または技師の方々に参加して頂きました。いずれの連載も臨場感溢れるものになると確信しております。消化器以外がご専門の先生方におかれましては「ちょっと難しいなぁ」とお感じになるかもしれませんが,懲りずに動画だけでも毎回ご覧頂ければ幸いです。そして近い将来,「消化管の病気?まずエコーでしょ!」というパラダイムシフトが生まれたら,これこそ望外の幸せというものです。消化管エコーは必ずや臨床の強力な武器になることを保証します。
2021年4月 川崎医科大学 検査診断学 畠 二郎