◉急性腹症診療では,まず,A(気道),B(呼吸),C(循環),D(意識)を確認しながら,迅速に病歴,身体所見を取る。
◉画像所見がないと判断する前に……①適切な画像検査を行ったか,②読影は完璧かを確認する。
◉それでも所見がない場合には,問診,身体所見,他の検査等から全身疾患等を疑う。
◉腹痛を訴える心筋梗塞等があるため,心窩部不快感を訴えても圧痛がない場合には要注意。
「急性腹症とは,発症から1週間以内に始まる急激な腹痛,または慢性腹痛の急激な悪化を特徴とする疾患群である。緊急手術や迅速な治療が必要な腹部(胸部等も含む)疾患が含まれる」と定義されている1)。急性腹症には広義の腹部臓器〔消化管,肝胆膵,泌尿器,生殖器,血管(大動脈,腸間膜等),筋肉〕に関連するものや,心筋梗塞,肺炎等の症状である場合もあり,多種多様である。救急外来での腹痛の診療は,急性腹症か否かを鑑別することと言える。本稿では,画像所見で診断がつかなかった急性腹症の対応について概説する。
急性腹症の診察でまず行うことは,他の救急疾患の診察と同様に,A (airway,気道),B(breathing,呼吸),C(circulation,循環),D(dysfunction
of central nervous system,意識)を確認することである。A,B,C,Dに異常があったり,バイタルサインに変調をきたしていたりする場合には,A,B,Cを是正するとともに,病歴や身体所見等から迅速に診断と治療を同時並行で進め,腹部超音波検査(US)等を用いて緊急の手術や画像下治療(interventional radiology:IVR)等が必要な病態か否かを判断する(図1)1)。
10年ぶりに改訂された『急性腹症診療ガイドライン2025』でも,初版同様,急性腹症の診療アルゴリズムとして,2 step methodsが提唱されている(図1)1)。特に,超緊急疾患である,急性心筋梗塞,腹部大動脈瘤破裂,肺動脈塞栓症,大動脈解離(心タンポナーデ)や,緊急疾患である,肝癌破裂,異所性妊娠,腸管虚血(上腸間膜動脈閉塞症,絞扼性腸閉塞など),重症急性胆管炎,敗血症性ショックを伴う汎発性腹膜炎,内臓動脈瘤破裂ではないか,鑑別を行うことが必要である。
一方,A〜Dやバイタルサインに異常がない場合には,より詳細な病歴,身体所見から疾患を推定し,血液,尿,画像検査から,正確な診断を行い,手術やIVR等が必要な病態(出血,臓器の虚血,汎発性腹膜炎,臓器の急性炎症)ではないかを判断する1)。
MDCT(multi-detector-row CT)の登場により,CTの診断能が格段に向上した。そのため,腹痛患者が来たらすぐに腹部CTをオーダーする研修医がいるが,問診や身体所見を取らずに画像検査だけを行っても確定診断への道は遠い。
急性腹症での診断のポイントは,既往,頻度(よくある疾患では高い),腹痛の部位,痛みの性状,随伴症状,身体所見からほぼ診断可能であることである。前述のガイドラインでも,「腹痛の位置,性状,随伴症状(痛みの部位や移動,急激に生じたか,痛みが増強しているか,吐血・血便あるいは嘔吐や下痢・便秘を伴っているか)を問診し,早急に手術が必要な疾患の可能性を検討する」と強く推奨されている(表1)1)。
痛みの部位やその性状によって多くの疾患の鑑別が可能である(図2)2)。痛みの性状では「OPQRST」を聴取すると,疾患をさらに絞ることが可能となる(表2)1)。
たとえば,突然発症の右上腹部痛で,嘔気はあるが嘔吐はほとんどなく,間欠的な痛みであれば,尿管結石を想起し(図3)1),季肋部痛であれば,超音波検査で胆石症や急性胆嚢炎,尿管結石症かを鑑別する。胆嚢炎では,sonographic Murphy’s signも有用である。