編著: | 菅谷憲夫(神奈川県警友会けいゆう病院小児科、感染制御/慶應義塾大学医学部客員教授) |
---|---|
判型: | B5判 |
頁数: | 258頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2020年12月15日 |
ISBN: | 978-4-7849-5481-0 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
対談 新型コロナウイルスのワクチン,抗ウイルス薬,インフルエンザとの同時流行について
chap. 1 総論
A.これからのインフルエンザ対策
B.SARS-CoV-2の臨床
C.SARS-CoV-2とインフルエンザ同時流行に備えて
D.鳥インフルエンザの最新状況
chap. 2 インフルエンザのウイルス学的知見
chap. 3 予防・治療
A.小児のインフルエンザ
B.成人・高齢者のインフルエンザ
C.妊婦のインフルエンザ,SARS-CoV-2対策
chap. 4 検査・診断
column1 COVID-19の迅速診断
column2 呼吸器ウイルスの検体採取
column3 SARS-CoV-2のPCR診断
chap. 5 インフルエンザ脳症の診断・治療
chap. 6 治療薬
A.インフルエンザ治療薬
column4 バロキサビルの耐性──基礎から
B.SARS-CoV-2治療薬:ファビピラビル
chap. 7 インフルエンザワクチン
A.インフルエンザワクチンの有効性:小児
B.インフルエンザワクチンの有効性:成人
chap. 8 院内感染対策(インフルエンザ,SARS-CoV-2)
column5 高齢者施設のインフルエンザ,SARS-CoV-2対策
Q&A
Q01 抗インフルエンザ薬を投与した場合のウイルス排出期間はどのくらいですか?
Q02 発症後,12時間以内の感度は低いので,検査まで12時間以上待つべきでしょうか?
Q03 微熱,あるいは無熱のインフルエンザ患者の頻度は?また,無熱のインフルエンザ抗原陽性患者に抗インフルエンザ薬は必要でしょうか?
Q04 経鼻ワクチンのメリットは?
Q05 まだワクチンを接種していないうちに,A(もしくはB)型インフルエンザ罹患後にB(もしくはA)型インフルエンザワクチン接種を行うタイミングは?また,小児で2回目の接種を受ける前にA(もしくはB)型インフルエンザに罹患したときにはどうすればよいでしょうか?
Q06 気管支喘息患者がインフルエンザに罹患した場合のステロイド吸入・内服投与は?
Q07 血液腫瘍患者,HIV患者など免疫の低下している場合のインフルエンザワクチンの効果は?
Q08 マスク・手洗い・うがい,室内空気を対象とした種々の空間除菌製品のインフルエンザ予防効果は?
Q09 インフルエンザの出席停止基準・期間と,学級閉鎖の判断はどのようにすべきですか?
Q10 国内外で抗インフルエンザ薬のラニナミビルへの評価が違うのはなぜでしょうか?
Q11 院内感染防止対策として,オセルタミビルの治療量を予防として使用するのはどうでしょうか?
Q12 南半球と北半球のインフルエンザ流行の関連性は?(流行株予測の観点から)
Q13 沖縄でのインフルエンザ流行の特徴は?
Q14 CPT-Ⅱ(carnitinepalmitoyltransferaseⅡ)遺伝子多型とインフルエンザ脳症の関係とは?
Q15 インフルエンザの漢方治療の有効性は?
今,世界はSARS-CoV-2流行の真っ只中にある。この感染症は意外にも,真夏でも流行が続く通年性の感染症であり,さらには空気感染の可能性もあると報告された。そのためか,流行状況を見ればロックダウンは別として,マスクや手洗い,フィジカルディスタンスでは感染制御に十分には有効ではないことが明らかになってきた。もし,有効なワクチンや抗ウイルス薬が開発されなければ,これから何年も続く流行となる可能性もある。
SARS-CoV-2とインフルエンザの流行の干渉も,きわめて興味深い現象である。北半球ではSARS-CoV-2の出現以降,インフルエンザの流行が3月中に終息した。また,南半球ではSARS-CoV-2の流行が続き,オーストラリアでは本来7~9月にはインフルエンザが流行するはずなのに,ほとんど患者が出てこない。これはおそらく,border control (国境閉鎖)の影響と推測される。今後,日本では冬のインフルエンザ流行期にborder controlを解除する方向に進むと,SARS-CoV-2との同時流行の危険性がある。
SARS-CoV-2は,ペスト,黒死病やスペインかぜと並ぶ,人類の感染症史に残る疾患である。人類は今まさに歴史的な流行を経験している。一部では依然として,SARSCoV-2のことをインフルエンザと同程度か,それよりも少し重い程度と言う声もあるが,実際はインフルエンザよりもはるかに重い疾患である。筆者は,本年2 月18日に週刊日本医事新報に,「新型コロナウイルス感染症はSARSに類似─インフルエンザに比べはるかに重い疾患」という一文を投稿した(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14034)。以下はその抜粋である。「国内初のCOVID-19死亡例が報告された2月13日以後も,依然としてマスコミで流れているのは,COVID-19は季節性インフルエンザ程度の感染症であり,恐れることはないという論調である。これは明らかな誤りである。常識で考えても,季節性インフルエンザ程度の死亡率,重症度の疾患であれば,WHOが非常事態宣言をすることはないし,中国が莫大な経済的損失にもかかわらず,大規模な都市封鎖を実施するわけがない。米国,シンガポール,台湾等では,中国からの入国禁止を実施しているが,常識で考えれば,季節性インフルエンザ程度の感染症でこのような対策がとられるわけがない。」
筆者は, インフルエンザこそは人類に残された最後の疫病と考えていたが, 今はSARS-CoV-2こそ, スペインかぜと並ぶ歴史的な疫病であると確信した。そのため,2010年から10年にわたり刊行してきた本書『インフルエンザ診療ガイド』を, 今年は『新型コロナウイルス感染症流行下のインフルエンザ診療ガイド2020-21』として,両方の感染症を対象にすることとした。SARS-CoV-2については,まだ発生したばかりではあるが,世界各国で,また日本でも多くの患者が発生している中で,最新の知見をまとめていくことは,大きな意味があると考えている次第である。
2020年11月 菅谷憲夫
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
・ 222ページ 更新 文献10
(誤りではなく、著者より情報更新です)
書籍掲載時の文献10)「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~」(2020.8.6 Ver.3)(文部科学省)[https://www.mext.go.jp/content/20200806-mxt_kouhou01-000004520_3.pdf]は、
2020年12月3日現在、(2020.12.3 Ver.5) 12月3日版[https://www.mext.go.jp/content/20201203-mxt_kouhou01-000004520_01.pdf]が最新になっています。