(新潟県 S)
【生後8カ月以内に,自然抗体として産生していると考えられる】
抗体産生の経路には,T細胞に依存しない抗体産生とT細胞に依存する抗体産生の2つがあります1)。前者には,CD5陽性のB細胞(B1細胞)が産生するIgM型の抗体があり,自然抗体(natural antibody)と呼ばれます。抗体産生に抗原刺激とT細胞(ヘルパーT細胞)を必要とせず,免疫グロブリン遺伝子の再構成は行われずgermlineのままです。産生される抗体は,糖鎖抗原に対する抗体が多いと言われています。後者には,CD5陰性のB細胞(B2細胞)が形質細胞に分化し産生するIgG型の抗体があり,免疫抗体(immune antibody)と呼ばれます。抗体産生に抗原刺激とT細胞(ヘルパーT細胞)が必要で,免疫グロブリン遺伝子の再構成が行われ,形質細胞に分化し抗体を産生します。
ご質問の現象の機序は,完全に解明されているわけではありませんが,今までの研究成果から以下の機序が支持されています1)。
新生児は,生まれつきABO血液型のA,B抗原に対する自然抗体を産生する能力を有しています。生後,食物や腸内細菌に含まれるA,B抗原と交差反応する抗原にCD5陽性B細胞が反応し,IgM型の抗A,抗B抗体を産生します。自身の抗原に対する抗体産生細胞は除去されますので,たとえば,A型の新生児が,抗A抗体を産生することはありません。新生児には,成人に比して末梢血のCD5陽性B細胞が多いこと,IgM型の抗A,抗B抗体の陽性率は,生後しだいに増加し,生後8カ月で100%になることが報告されています2)。細菌感染症への一次防御機構としてのIgM型の自然抗体の役割が示唆されていますので3),新生児で産生されるIgM型の抗A,抗B抗体は,A,B抗原に類似した抗原を有する細菌による感染症を予防しているのかもしれません。
【文献】
1) Branch DR:Transfusion. 2015;55(Suppl 2): S74-9.
2) Wuttke NJ, et al:Immunol Cell Biol. 1997;75 (5):478-83.
3) Racine R, et al:Immunol Lett. 2009;125(2): 79-85.
【回答者】
室井一男 自治医科大学附属病院輸血・細胞移植部部長/教授