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PD-L1およびPD-L2の生理的発現分布の相違と機能は?

No.5026 (2020年08月22日発行) P.50

岩井佳子  (日本医科大学大学院医学研究科 細胞生物学分野教授)

登録日: 2020-08-19

最終更新日: 2020-08-18

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(1)PD-L1は生理的にはかなり種々の系統の細胞に発現しているとされますが,その発現分布について,解釈可能な規則性と推定される機能はどのようなものでしょうか。PD-1を発現する活性化細胞傷害性T細胞の機能は非免疫系細胞によっても抑制されうるのでしょうか。
(2)PD-L2が抗原提示細胞(APC)マクロファージに発現する選択性の程度,およびそのAPCマクロファージにおける機能はどのようなものですか。(兵庫県 T)


【回答】

 【生体におけるT細胞のブレーキ役として,PD- L1は主要な役割を果たしている】

PD-L1は様々な細胞,組織で広く発現します。PD-L1は正常末梢組織で恒常的な発現がみられ,様々な臓器の抗原提示細胞や血管内皮細胞に発現し,炎症により発現が上昇します1)2)。免疫応答が起こると,活性化したリンパ球を含むほとんどの免疫担当細胞がPD-L1を発現します。またウイルス感染が起こると,血管内皮細胞だけでなく,臓器の実質細胞もPD-L1を発現します。さらにPD-L1は血液系腫瘍,皮膚癌,肺癌,卵巣癌,乳癌など多くの種類のがんで発現がみられます3)4)

PD-L1はT細胞上のPD-1に結合すると,T細胞の機能を抑制し,免疫寛容を誘導して,過剰な免疫応答を抑え組織傷害から生体を守りますが,がん細胞やウイルス感染細胞などはPD-1/PD-L1シグナルによる免疫抑制機構を利用して宿主の免疫監視から逃れます2)5)6)。PD-1発現T細胞にブレーキをかけるのは,標的細胞(がん細胞やウイルス感染細胞)上のPD-L1だけではありません。免疫細胞や血管内皮細胞等の非免疫系細胞に発現するPD-L1からも抑制性シグナルが入ります。がん細胞にPD-L1が発現していなくても,免疫チェックポイント阻害薬の効果がみられるのは,がん細胞以外の免疫細胞や非免疫系細胞からの抑制性シグナルを遮断する効果によるものと考えられます。

一方,PD-L2の発現は限局的で,主に抗原提示細胞に発現します3)。抗原提示細胞としては,樹状細胞やマクロファージ,B細胞などがありますが,炎症や免疫応答の程度やサブセットによって発現レベルが異なります。PD-L2の機能としては,PD-L1と同様にT細胞の増殖やエフェクター機能を抑制します。しかし,上述のようにPD-L1が広範に発現するのに対して,PD-L2の発現は一部の細胞に限られていることから,生体におけるT細胞のブレーキ役としてはPD-L1が主要な役割を果たしていると思われます。

【文献】

1) Freeman GJ, et al:J Exp Med. 2000;192(7): 1027-34.

2) Iwai Y, et al:J Exp Med. 2003;198(1):39-50.

3) Latchman Y, et al:Nat Immunol. 2001;2(3): 261-8.

4) Dong H, et al:Nat Med. 2002;8(8):793-800.

5) Iwai Y, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2002;99 (19):12293-7.

6) Iwai Y, et al:Int Immunol. 2005;17(2):133-44.

【回答者】

岩井佳子 日本医科大学大学院医学研究科 細胞生物学分野教授

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