「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」で2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏(京大特別教授)は4月29日、名古屋国際会議場(名古屋市)で開かれた日本医学会総会で講演し、PD-1抗体治療をはじめとする免疫療法の発展により「がんを克服する可能性が出てきた」と強調した。
医学会総会での本庶氏の講演「がんを免疫力で治す」は、昨年12月、ノーベル賞授賞式前にストックホルムのカロリンスカ研究所で行ったノーベル・レクチャーの内容に沿って進められた。
本庶氏は、「小学校の校庭で理科の先生に天体望遠鏡で土星の輪を見せてもらった」ことがきっかけで自然科学に興味を抱くようになり、さらに、母親が買ってくれた野口英世の伝記を読んで「不屈の意志を持った医学者の姿」に心を深くとらえられて医学の道に進む決意をした、と自らの生い立ちを語りながら、AID(ワクチン接種によって起こる抗原の記憶を抗体遺伝子に刻む酵素)の発見、免疫反応のブレーキ役をするPD-1分子の同定とがん治療への応用に至る数々の研究成果を説明。
PD-1抗体による治療法の開発で「がん治療は大きく変わった」とし、従来の抗がん剤治療と比べた場合の利点として①正常細胞に影響を与えず、副作用が少ない、②1種類の薬で多くのがんに効く可能性がある、③いったん効き始めれば、治療をやめても効果が長く続く—などを挙げた。
一方、PD-1抗体治療の課題として「効く人と効かない人がいる」点を挙げ、「最も重要なことは我々の個体差。インフルエンザにかかってもくしゃみですむ人と40度の熱で死にかける人がいる。これをどうすれば区別できるか。免疫療法をさらに改善していく必要がある」と述べた。
本庶氏は、2016年3月の英国科学誌「New Scientist」でのPD-1抗体治療を評したアンディ・コグラン氏の言葉「我々はがんにおけるペニシリンの発見ともいうべき時期にいる」を引用しつつ、「感染症(の治療)はペニシリンによって劇的な変化を遂げたが、ペニシリンだけで感染症が克服されたわけではない。その後長く続く新しい抗生物質の発見によって克服はなされた。PD-1抗体治療は始まったばかり。まだごく一部のがんにしか適応はできていない」と指摘。
その上で、もっと多くのがんの治療に使えるようになれば「いつの日か、腫瘍を大きくしない程度の免疫療法でがんが慢性疾患の1つとなり共存できる日も来るのではないか」と述べ、「20世紀、我々は抗生物質の発見、免疫学の進歩によって感染症を克服することができた。21世紀には、やはり免疫の力でがんを克服する可能性が出てきた」との見通しを示した。
本庶氏は、京大医学部卒業後に出会い「研究は国際的でなければならない」などの教えを受けた医化学教室の早石修教授をはじめ、多くの師に恵まれたことも強調。最後は、世界中の共同研究者や研究に協力した政府機関、民間企業にあらためて謝意を表し、講演を締めくくった。