【ウェルニッケ脳症でも,意識障害を伴うとは限らない】
ビタミンB1(VB1)は糖代謝に必須の補酵素だが,体内で産生できないので,外部摂取に頼っている。体内蓄積期間が18日と短く,食欲低下をきたす疾患で蓄積量が低下しやすい。VB1欠乏により生じる疾患はウェルニッケ脳症(WE)で,臨床症状は意識障害,失調性歩行,眼症状が3徴である。意識障害(せん妄)で発見されることが多いが,臨床症状は非特異的で見落としが多い。治療はVB1の経静脈的投与であり,早期発見,治療で後遺症なく回復するが,治療が遅れると後遺症(コルサコフ症候群)を生じる。
がん治療中の患者で意識障害を伴わないWEを見出した1)。
症例1:61歳,女性。ホジキンリンパ腫治療中にふらつきを訴えた。
症例2:50歳,女性。乳癌骨転移の治療中にふらつきを訴えた。
両症例とも意識障害は認めず。画像,血液・生化学所見でも病状の説明可能な異常は認めず。食欲低下が2週間続いたためVB1欠乏を疑い,VB1の経静脈的投与を行ったところ,ふらつきは改善した。血清VB1濃度は症例1が19ng/mL,症例2が23ng/mL(正常範囲:24~66ng/mL)といずれも低下していた。両症例ともVB1投与による症状改善と血清VB1濃度低下よりWEと診断した。
WEは意識障害のイメージが強いが,そうでない場合もある。
【文献】
1) Onishi H, et al:Palliat Support Care. 2018;16 (1):118-21.
【解説】
大西秀樹 埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンター精神腫瘍科教授