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【識者の眼】「新型コロナウイルス対策の心構え:人同士の物理的な距離をとりながらも、関わりは続け、そして連帯すること」和田耕治

No.5004 (2020年03月21日発行) P.58

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

登録日: 2020-03-09

最終更新日: 2020-03-09

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新型コロナウイルス感染症の今後の中長期的な予防策の一つが見えてきました。それは、「人同士の物理的な距離をとること」です。対策を難しくしている理由は、比較的元気な人が知らず知らずのうちに多くの人に感染させていることです。つまり、誰が集団に感染させているかがわからないのです。飛沫感染対策としては人と人の間を1m〜2mを空けることが必要となります。

個人のレベルでは、①換気の悪い密閉空間、②人が密集、③近距離での会話や発声─の3つが重なる場所は、流行を拡大させないために、今後も自粛を呼びかける必要があるかもしれません。懇親会や、観客も声を出すような室内でのコンサートなどが対象になります。影響を受ける企業や自営業者も多いことが想定されています。一方で、個人レベルの飛沫感染対策として様々な取組がなされています。ネットでの懇親会や、マラソンを各自で走ってタイムを報告するといった取組があります。

国レベルでは、9日から、中国と韓国からの日本への訪問者を対象に厳しい措置(2週間の待機要請など)が実施されています。これも人同士の物理的な距離をとるためです。ただ、対象は中国と韓国だけでいいのでしょうか。保健医療体制の脆弱な国において流行は容易に拡大しますが、感染者数は明らかになりません。アジアにはそうした国がまだまだあります。これらの国は高齢者が比較的少なく、影響は日本より少ないかもしれません。鎖国のような状況は現代では通常は考えられませんが、こうした国との間の往来も制限が続くかもしれません。

高齢者に接する人の数や時間を減らしたり、高齢者は人混みを避けるようにとの呼びかけも対策として含まれるようになってきています。要は高齢者に触れる機会を減らすことで感染機会を減らす取組です。ただ、高齢者施設で高齢者に触れないことは難しいですし、家族の絆の分断にもつながります。

私達の人間関係や行動を変えることが新型コロナウイルス対策となります。変わらなければ影響を受けるのは重症化リスクの高い高齢者です。次に影響が出るのは、医療を必要とするすべての人です。

今後も、様々な場所で小規模な集団感染がぼやのように始まる可能性があります。次第に火事が広がれば、地域の「緊急事態宣言」のような形で社会活動を低下させて、人同士の距離をさらに空けるということが行われます。

物理的な距離をとる一方で、我々は個人で、地域で、国を超えて連帯しなければなりません。距離をとるというのは心理的にも影響が大きいです。しかし、関わりすらも減らすという意味ではなく、距離はとるが、関わりを減らしてはいけません。個人でも、地域でも、国でも。新しい価値観と前向きな行動で、今後長く続くであろうこの流行に対応して行かなければなりません。

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症] 

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