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【識者の眼】「COVID-19重症患者の多くが敗血症に陥っていると推定」松嶋麻子

No.5012 (2020年05月16日発行) P.56

松嶋麻子 (名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学教授)

登録日: 2020-04-30

最終更新日: 2020-04-30

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2020年春、世界は新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)のパンデミックに見舞われています。影響は5月に及び、日本では最も気候がよく、お出かけ日和となるゴールデンウィークも緊急事態宣言の下で外出自粛が続いています。連日、多くの患者がCOVID-19と確定され、医療機関では日夜、感染症への対応に追われています。

今回のパンデミックでは、感染拡大の比較的早期から、重症患者に医療資源を投入すること、医療崩壊を防ぐことが強調されてきました。これは過去の新型インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行後に出された解析から、患者の予後に最も影響する因子は基礎疾患や年齢より、医療資源だったことが判明したためです。患者の急増により人工呼吸器やICU病床が不足し、院内感染により医療従事者が最前線から離脱すると、十分な医療を提供できなくなります。その結果、通常であれば救えた患者の命を救えなくなる、という意味ですが、今回はこの「医療崩壊」を防ぐため、早期から行政や専門家が一般市民に向けて対策への協力を呼び掛けています。その効果もあってか、ヨーロッパや北米と比較し、日本ではCOVID-19の患者数、死者数とも低く抑えられ、何とか医療を維持しているという現状です。

では、重症化するCOVID-19の中に、敗血症患者はどのくらいいるのでしょうか。米国・シアトルからの症例の解析報告では、肺炎による呼吸不全以外に、肝機能障害は約40%、循環作動薬を要する循環不全は約70%の症例に認められたと報告されています1)。また、中国からの報告では、肝機能障害は15%、腎機能障害も15%、凝固障害は34%、心筋障害は72%の症例で認められたと報告されています2)。重症のウイルス疾患はウイルスの直接的な影響と宿主の免疫反応により全身の臓器に影響を及ぼすことがこれまでも報告されていますが、COVID-19においても重症化する患者の多くが敗血症に陥っていることが推定されます。COVID-19に対する抗ウイルス薬とワクチン開発が進む中、それら病原体特異的な治療とともに、敗血症を呈する重症患者に対応する人材の育成やICU病床を始めとする医療資源の確保が求められています。

【文献】

1)Bhatraju PK, et al:N Engl J Med. 2020 Mar 30.

2)Guo T, et al:JAMA Cardiol. 2020 Mar 27.

松嶋麻子(名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学教授)[敗血症の最新トピックス③]

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