No.5014 (2020年05月30日発行) P.66
栁原克紀 (長崎大学病院検査部教授・部長)
登録日: 2020-05-16
最終更新日: 2020-05-15
敗血症は「臓器障害を伴う重症感染症」と定義され、血液培養から病原微生物が検出されたり、血液中に病原微生物の毒素が検出される必要性はないとされる。しかしながら、患者管理や治療方針決定のためには、原因微生物が推定された方が望ましい。抗菌薬投与開始前に血液培養を行い、可能な限り原因菌を特定し、適切な治療を行うことが求められる。
確実な微生物検査が推奨される理由の一つは原因菌の推定・特定であるが、もう一つの重要な理由は、微生物情報を参考に、適切な抗菌薬への変更や、de-escalationが可能となるためである。微生物情報をもとにして感染臓器を推定できる場合や、想定内の菌種であっても薬剤耐性が進んだ株であった場合など、得られる情報が治療方針に与える影響は大きい。
異なる部位からの2セット以上の血液培養検体の採取が推奨される。これは2つの点で有益である。1点は検出率を上昇させることであり、もう1点は、皮膚に常在する細菌が検出された場合にコンタミネーション(汚染)かどうかの判断がしやすくなることである。
採取セット数を増やすことにより微生物の検出率の上昇が期待できる。いくつかの報告によれば、菌血症の原因菌が検出される率は、1セットでは70%前後であるが、2セットでは80〜90%程度に上昇し、3セットになると95%以上が陽性であった。
皮膚に常在している細菌も菌血症の原因となることがあるが、このような細菌が血液から検出された場合、原因菌なのかコンタミネーションなのかの判断が困難であることがしばしばある。判断が難しい代表的な細菌として、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌やアクネ菌(Propionibacterium acnes)、コリネバクテリウム属、バチルス属などが挙げられる。2セット以上採取した時にこのような菌が1セットから検出された場合には、臨床病態や血管内カテーテルの状況を考慮して、原因菌かどうかを判断しなくてはならない。複数のセットで検出された場合には、原因菌である可能性が高い。
わが国における血液培養検査の施行数は欧米に比べ、圧倒的に低いことが問題であった。近年、重要性の啓発に伴い、全国的に検体数が増えてきていることは大変良い傾向である。
栁原克紀(長崎大学病院検査部教授・部長)[敗血症の最新トピックス④]