No.5016 (2020年06月13日発行) P.63
南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)
登録日: 2020-05-20
最終更新日: 2020-05-20
12歳で母親と一緒に来日した10代のフィリピン人女性。昼夜を問わず働く母親の代わりに小さい妹の面倒を見ながら夜学に通っている。学校の健診で尿糖を指摘され、その後若年性糖尿病と診断された。当院では国際医療コーディネーターのフィリピン人女性が通訳したが、言葉以前に本人も母親も糖尿病の知識に乏しく、医師が一から説明してもどうやらピンと来ないようだった。そのため入院中は改善する血糖値も、退院後にはたちまち悪くなる。それは本人の生活環境に起因するところが大きく、食事制限をしようにも夜学では友達と好きなだけ食べ、認識不足の母親は子供にお菓子や糖分の多いジュースを買ってくる。運動を勧めても、そもそもフィリピンでは子供に運動の習慣がないらしく受け入れられない。母親は多忙でほとんど家におらず、本人は学校でのいじめや日本語のストレスから情緒不安定に陥り、リストカットを繰り返していた。
血糖値が落ち着かないまま数年当院に通っていたが、ある時期から本人に自覚が芽生え治療に前向きとなった。どうやらインターネットを通じてフィリピンに彼氏ができたのがきっかけらしく、自分のプライベートについて当院の糖尿病専門ナースに語るようになった。同胞の彼氏ができたことで自分の将来について考えるようになり、子供を産むには自分が健康体でいなければという結論に至った。偉大なるは恋の力なり。
慢性疾患の場合、根気よく治療を続けることが鍵となるが、分かっていても自制は困難で、若年者ならなおさらである。節制の継続には何らかのモチベーションが必要だが、本人にその気がなければいくら説教したところで変わらない。多感な時期に彼女は日本に連れてこられ、異文化での生活に馴染めないまま相談する相手もおらず、自暴自棄になっていたのも無理はない。それが、問題解決の糸口がインターネット上の出会いだったとは、まさに今時である。直接触れなくても顔を見ながら話し、つながることで人が救われる。この良好な関係が長く続いてくれることを願うばかりである。
南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]