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【識者の眼】「感染症が引き起こす癌」松田智大

No.5016 (2020年06月13日発行) P.57

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-05-20

最終更新日: 2020-05-20

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感染症の時代から非感染性疾患(NCD)の時代へ、と一昔前に世界の疾病対策が大きくシフトした。しかしながら、現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延からもわかるように、先進国であっても、未だに新興・再興感染症の問題は顕在化しており、アジアの低中所得国(LMIC)では、高齢化を迎え、古くからの感染症とNCDの両方の負担を抱えることになった。癌は無論NCDの一つだが、ウイルスや細菌の感染によって、細胞増殖の際の遺伝子変異が蓄積したり、直接的に細胞が刺激されたりすることが発癌のリスクになると分かっている。

例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が子宮頚癌を引き起こし、エイズ症状の一つとしてHHV-8がカポジ肉腫罹患と関連していることも知られている。アジア特有の癌のいくつかも、感染症との関連がある。東アジアに多い胃癌は、ヘリコバクターピロリが、肝癌はB・C型の肝炎ウイルスが、鼻咽頭癌やバーキットリンパ腫は、エプスタインバールウイルス(EBV)が、それぞれ持続的に感染することがリスク要因になっている。国際癌研究機関(IARC)のGlobal Cancer Observatory(https://gco.iarc.fr/)によれば、アジアの癌罹患の年齢調整罹患率は高い方から4番目が胃癌、7番目が肝癌だ。欧州や北米でのランキングには胃癌、肝癌は上位10位に入らない。RARECAREnet Asia研究は、アジア圏内の差も明らかにしており、台湾の鼻咽頭癌の年齢調整罹患率(4.6/10万)は、日本や韓国の9〜10倍となっている。こうしたもののいくつかは、今日、ワクチン接種や生活習慣改善によって感染を予防することや、不顕性感染を発見できれば、治療によって発癌させないレベルにウイルス量をコントロールすることが可能となっている。

長期間の生活習慣の改善と比較し、感染症予防に基づく癌対策は、うまくいけば劇的な罹患・死亡リスク削減が期待できる。疾患特化ではなく、公衆衛生的な広い視点で癌対策を進めていく必要があろう。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアの癌医療研究連携 ]

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