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【識者の眼】「定期接種ワクチン:キャッチアップの制度化を」岩田健太郎

No.5016 (2020年06月13日発行) P.56

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-06-03

最終更新日: 2020-06-03

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HPVワクチン(いわゆる「子宮頸がんワクチン」)の「積極的勧奨の差し控え」を国が決めてから7年が経った。「積極的勧奨の差し控え」という意味不明の日本語は、国民には「国は打つなと言っている」というメッセージと読み取られた。もちろん、そう読み取られるのは当然予想できたはずだ。が、国は「いやいや、国はそんなことは言ってませんよ。あれは定期接種ですよ。お知らせのはがきを届けなくなっただけで」というお得意の言い逃れ戦法である。

いずれにしても、HPVワクチンの接種率は激減した。将来、ほぼ撲滅できると見積もられている子宮頸癌だが、日本では毎年約1万人が罹患し、3000人程度の患者が死亡している。新型コロナウイルス感染のような急峻な問題も看過はできないが、このような毎年恒常的に起きている(しかも、回避する方法は分かっている)問題は、もちろん看過してはならない。

その失われた7年を取り戻すため、接種のチャンスを与えるよう、有志による署名活動が始まった。読者諸氏もぜひ署名に参加してほしい(https://www.change.org/p/厚生労働大臣-hpvワクチン-子宮頸がん等予防-を打つ機会を奪われた若者たちが無料で接種するチャンスをください-2?recruiter=528043850&utm_source=share_petition&utm_medium=copylink&utm_campaign=share_petition)。

よく知られているように、日本の予防接種制度は世界の基準以下にある。その問題点は多々あるが、最大の問題は「キャッチアップ制度の欠如」にある。キャッチアップとは、設定された予防接種期間を過ぎても、ワクチン接種できなかった人が後から接種、感染防御に追いつく(キャッチアップできる)という制度だ。海外では常識である。

ことはHPVワクチンだけの問題ではない。全ての定期接種ワクチンは、みんなに打ってもらいたいという目的から定められたものだ。目的を見失って形式だけ満たし、時期が過ぎたら見切り発車で「さようなら」では当初の目的は果たせない。形式主義から本質主義へ。日本の成長と進化が求められる。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[HPVワクチン]

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