昨年12月に私の恩師である阿部圭志東北大学名誉教授が逝去された。1981年4月、私は東北大学第2内科に入局し、阿部先生に師事した。入局から3カ月ほど経ったある日、先生から「伊藤君には来年、デトロイトのオスカー・カルテロのところに行ってもらう。ついては、何でもよいから英語の原著論文をまとめなさい」と言われた。
1年後、何もわからず、研究テーマも持たずにデトロイトに着き、レニン分泌における緻密斑機序の直接証明という新たな研究を始めた。当然、研究成果はなかなか出なかったが、多くの方々の助けに恵まれ2年半後に成功することができた。いったん帰国したが、2年半後に再びデトロイトにシニア・スタッフとして赴任し、8年間過ごして帰国した。
私が教授就任後、阿部先生に「なぜ、入局したての私を海外に送り出すことに決めたのですか」と質問をした。「僕は1980年頃から、自分の手垢を付ける前に世界に出して、一流の世界を肌身で感じさせることが大切だと考えていた」とのお答えであった。阿部先生は当時から、若くして海外留学させることを積極的に進めておられた。「自分の手垢を付ける前に」と話されたことに感銘を受けた。
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