No.5021 (2020年07月18日発行) P.66
奥山伸彦 (JR東京総合病院顧問)
登録日: 2020-06-22
最終更新日: 2020-06-22
前述(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14908)したように、昨年、世界保健機関(WHO)は、ワクチン接種後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISRR)として、その生物心理社会的モデルを提示した。そこでは、血管迷走神経反射や失神といったワクチン接種後の急性反応については、女性、思春期という生物学的リスク、そして予防接種についての知識不足と潜在的な不安という心理学的リスク、ワクチンについての社会と家族のサポートの欠如というリスクが関与していると説明。さらに、接種後の、麻痺、異常運動、歩行異常、発語困難、非てんかん性痙攣などの解離性神経学的反応については、個人的な痛みに対する過敏性という生物学的リスク、不安や恐怖などの潜在的な心理学的リスク、および対応する医療者、家族、友人、さらにはマスメディアの社会的リスクが関与している、と説明されている。
この解離性神経学的反応については、集団接種の事例をみればワクチン接種との因果関係は理解しやすいが、日本で問題になっているCRPS(複合性局所疼痛症)を含む慢性疼痛、体位性頻脈症候群、慢性疲労症候群など「多様な症状」については、ISRRとは別に、「病因不明で、ワクチンと無関係な背景に起因し、ワクチンと近接して発症するとワクチン後の有害事象として報告される」事例とされている。
これらの議論を踏まえて、HPVワクチン接種後の慢性疼痛と多様な症状は、「ワクチン接種が契機とはなった可能性はあるが、因果関係は不明」とした上で、小児期のCRPSを含めた慢性疼痛や身体症状症(DSM-5)に解離症状が合併した、つまり厚労省の説明する機能性身体症状として診療が組み立てられるべきと思うが、日本では、この診療がなかなか成り立たない。
多くの医療機関で診療が敬遠され、訴えが受け入れられず、詐病や精神病扱いされて患者は放浪し、最終的には多くの患者さんが、免疫学的な神経疾患として治療する特定の病院へ集まっている現状がある。もし積極的勧奨が再開され接種が広まれば、副反応の出現した患者さんが再び行き場を失って医療機関を転々とする可能性が大きいということである。
次回からは、具体的にどのような診療が推奨されるか、提案していく。
奥山伸彦(JR東京総合病院顧問)[小児科][HPVワクチン]