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【識者の眼】「せん妄に出会ったら治療薬を疑え」上田 諭

No.5021 (2020年07月18日発行) P.62

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科)

登録日: 2020-07-03

最終更新日: 2020-07-03

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見当識障害や幻覚・妄想を生じるせん妄は、身体科入院中の高齢者に多く生じ、過活動性の場合、しばしば安全な治療継続と病棟運営上の障害になっている。かつては、過活動性せん妄の患者を前にして精神科に治療を“丸投げ”するような態度(「精神科病棟に移せ」など)が医療者に見られた。それは全くの的外れであった。せん妄は精神症状を呈すが意識障害であり、直接的原因は「精神」ではない。例外なく身体的問題にある。精神科医にできるのは一時的な鎮静だけだ。どんなに精神科医が頑張ろうと、身体的問題が改善しないとせん妄は治らない。なかでも見逃せないのは、治療薬の副作用だ。

胆管炎で内科に入院し軽快していた70代後半の男性が、ある夜、自室(個室)の浴室でパジャマを着たままシャワーを浴びているのが見つかった。精神科既往も認知症もなく生活は自立した患者だった。慌てて制止する看護師に、「おまえは誰だ、どこから入ってきた」と叫んだ。男性は病院にいるという見当識も失くしていた。リエゾン診療の依頼を受けて駆け付けた精神科医は、原因を調べて、胸やけに対し当日夕食後から開始された薬を疑った。ラフチジンというヒスタミンH2受容体遮断薬(H2ブロッカー)だった。内科主治医にPPI(プロトンポンプ阻害薬)への変更を求め、翌日から異常な言動は消失した。男性はシャワーのことをまったく覚えていなかった。治療薬によって誘発されたせん妄だったと思われた(実は1週間後、内科主治医が誤って再びラフチジンを処方してしまい、まったく同じせん妄症状が男性に出現した。薬剤誘発性であると確定した)。

せん妄の直接原因として典型的なのは、高度な炎症、呼吸状態や心不全の悪化、術後疼痛などである。これらとともに、真っ先に疑うべきは、投与中の治療薬である。原疾患増悪によるせん妄はやむを得ないとしても、医原性に生じさせることは厳に注意しなくてはいけない。原因となるのは、この男性例のH2ブロッカーのほか、ベンゾジアゼピン系薬剤(睡眠薬、抗不安薬)、ステロイド、頻尿・失禁に対する薬剤(抗コリン薬、抗うつ薬)などが代表的だ。これらは有効に作用する場合ももちろん多いが、せん妄が出現したら、こうした薬剤が最近開始されていないか、以前から投与されていても増量されていないかを必ずチェックする必要がある。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科)[高齢者医療]

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