No.5022 (2020年07月25日発行) P.56
浅香正博 (北海道医療大学学長)
登録日: 2020-07-03
最終更新日: 2020-07-03
わが国における死亡原因を見ると、悪性新生物すなわちがんの死亡率は年々上昇しており、下降傾向を示していない。実際、わが国では毎年35万人を超える人ががんで亡くなっており、日本人の2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで亡くなる時代になっている。
わが国の平均寿命は、戦後著しく延長し、2018年には女性87.3歳、男性81.3歳と世界のトップクラスを維持している。この平均寿命がきわめて長いことが、がん死亡者の増加と密接に関連しているのである。わが国のすべてのがんを合わせた全がん死亡率を見ると、がんは40代まではほとんど発生せず、男性では50代から少しずつ上昇を示し、60歳を超えると急速に増加する。女性は男性に比して上昇は緩徐であるが、70歳を過ぎると急激な上昇を示してくる。男性の80代では50代に比して約10倍もがんが発生する。生まれてからの長い年月の間に発がん物質や細菌、ウイルスや放射線などにより遺伝子が傷ついて突然変異を生じ、がんが発生してくる。したがって、高齢になるほどがんが発生しやすくなることは、どうしても避けられないことなのである。
がんの原因は大きく分けると生活習慣由来と感染症由来の二つに分けることができる。欧米では、感染症由来のがんが10%以内と少ないのであるが、わが国では感染症由来のがんが約25%を占めていることが明らかになってきた。その内訳は肝炎ウイルスによる肝臓がん、パピローマウイルスによる子宮頸がんおよびピロリ菌による胃がんがその代表である。感染症由来のがんは原因の除去、またはワクチンで予防することが可能である。生活習慣に基づくがんの代表は大腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮体がんなどであり、肺がんもこの中に含まれる場合が多い。通常の生活習慣由来のがんは原因を特定することが難しいが、肺がんのみは原因の大半が喫煙であることがわかっている。生活習慣由来のがんの予防は原因がわからないだけにきわめて難しい。それゆえ、喫煙という原因がはっきりしているがんのみが予防可能になる。すなわち感染症に基づくがんと喫煙による肺がんが予防可能ながんといえる。
これから、がんの予防の政策を立案していく過程で、予防可能ながんを確実に予防できる方策を考えていくことがきわめて重要になる。
浅香正博(北海道医療大学学長)[がんの予防]