No.5021 (2020年07月18日発行) P.68
荒木優子 (共永総合法律事務所・弁護士)
登録日: 2020-07-03
最終更新日: 2020-07-03
医療業界特有の慣習として医局人事が挙げられます。大学病院や関連病院の医師の人事を病院とは別の主体である医局が決定することの法的な位置づけは、どのように整理されるのでしょうか。また、医局人事による退職は、医師の意に反する退職であったとしても自己都合退職として扱われるのでしょうか。
医局人事により大学病院を退職して関連病院へ異動した場合に、退職勧奨による退職として扱われるのか自己都合退職として扱われるのかが争点になった裁判例(大阪地裁平成27年4月28日判決)を紹介します。
本裁判例では、①医局人事による退職の場合は、退職後の勤務先が確保されていることや医局と医局員との関係は継続していくことが前提であるので、通常の退職勧奨による退職とは異なること、②医局人事を利用するか否かは自由意思に委ねられていること、③過去医局人事により退職した医師全てが自己都合退職として扱われており、当然に認識していたこと─などを理由として、医局人事による異動が当該医師の意に沿っているかにかかわらず、医局人事に従うという医師側の自己都合による異動(退職)であるというべき、と判示されました。
紛争に至った経緯として、退職勧奨による退職と扱われた場合、自己都合による退職よりも支払われる退職金が約200万円高いという事情がありました。医局に所属する医師は、医局人事により大学病院や関連病院での勤務と退職を繰り返すため、医局に長く所属していたとしても個々の病院での勤続年数が短くなりがちで、退職金の算定(一般的に勤続年数が長くなるほど退職金の額も高くなる)や年次有給休暇の日数において不利益になることが多いと思います。
医局に所属する医師は、診療に加えて教育や研究、さらには医局人事により地域医療への貢献も果たしているため、医局に所属する医師の労働条件の待遇改善を望みます。
荒木優子(共永総合法律事務所・弁護士)[医師の働き方改革]