No.5023 (2020年08月01日発行) P.56
細井雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)
登録日: 2020-07-22
最終更新日: 2020-07-22
下記のグラフはどこかで見たような気がしませんか? 「新型コロナウイルス感染者推移」?と思われるかもしれませんが、これは新規発症2型糖尿病患者さんの血糖平均値の指標であるHbA1Cの毎月の変化の一例です。
HbA1C 10%で紹介されてきますが、自覚症状はないため14%にまでなってようやく、「教育入院」を受けていただきます。入院中、周りとの接触を避け、外食、会食もなく血糖は改善します。外来では順調にHbA1Cは低下し6%にまで到達します。ここで、極端な言い方をすれば、このまま目標値近くを保つ方と、再度、血糖が上昇していく方に分かれます(あくまでも極論であることをお許しください)。後者の方は、再びHbA1C 10%以上にまで上昇しますが、「もう2度と入院はお断り」と応じていただけません。新型コロナの感染者数増加のニュースを聞くたびに、このような2型糖尿病患者の姿を思い出します。「教育入院」は「緊急事態宣言」のようなものかもしれません。外出自粛の間、患者数は減少します。ところが解除(=退院)されると、再度上昇(悪化)される方がいます。「行動変容」は10日間ぐらいの教育入院では完全成就なされません。日常生活に戻ると徐々に食事運動療法も忘れ去られて、お薬も「2次無効」(=第2波?)となってしまう方がおられます。
このように「行動変容」が難しいことを「行動経済学」では、「現状維持バイアス」(現状を変更する方がより望ましい場合でも、今までの生活や習慣を失うことを損失と考えてしまって、現状維持を好む傾向)や、「現在バイアス」(現在の楽しみを優先し、計画を先延ばしにしてしまう特性)と言うそうです(大竹文雄先生、毎日新聞「緊急事態宣言後も人だかり…行動経済学者が説く「変容」の難しさ 新型コロナ」2020年4月24日)。「ヒトは不合理な行動をとるイキモノ」です。「行動変容」の成就の難しさを糖尿病療法でも、新型コロナ感染対策でも痛感しています(再度、極論をお許しください)。
細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)[行動変容]