No.5025 (2020年08月15日発行) P.60
東 憲太郎 (公益社団法人全国老人保健施設協会会長)
登録日: 2020-08-03
最終更新日: 2020-08-03
高齢者の薬物療法については、2015年に日本老年医学会より出された「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」において、65歳以上の要介護高齢者に対し、6剤以上の投薬を行った場合、薬物有害事象のリスクが高くなることが記載されている。
私は現在でも老健施設の施設長であり、管理医師として働いているが、老健施設を利用される方で、複数の医療機関から合計10数剤投与されている方も少なくない。胃腸薬等が重複して投与されていることも多い。一方で、ターミナル等で経口が困難となり、無投薬にした途端、経口が可能となってターミナル期を脱した例も何例も経験している。また、糖尿病のコントロールにおいては、独居や老々世帯が多いことから、在宅復帰後の生活も考慮し、できるだけインスリン注射を内服薬へと変更している。その際のHbA1c値も8.0〜9.0程度を目安としている。
2018年度の介護報酬改定において、「かかりつけ医連携薬剤調整加算」という画期的な項目が新設された。これは、老健管理医師とかかりつけ医が連携して入所者の内服薬を減らすことを評価したものである。もとより老健施設は在宅支援がその役割であり、医療機関と在宅の間のかけ橋でもある。薬剤というテーマで、老健管理医師とかかりつけ医が密接な連携を図ることを促したこの加算の持つ意味は大きい。私は診療所での診察も行っているが、高齢患者の服薬管理状況は常に不安である。むやみに減薬・加薬ができない現状がある。そこで1カ月程度の老健入所(ショートステイでも可)を利用して、内服薬の過不足を調整してはどうだろうか。老健施設には医師・看護師が常駐しており、十分に経過観察もできる。複数の医療機関からの重複投与を整理することも可能となる。リハビリやレスパイトだけでなく、薬剤コントロールや褥瘡処置といった、医療的ニーズによる老健利用も、今後有用となるのではないだろうか。
東 憲太郎(公益社団法人全国老人保健施設協会会長)[医療と介護の連携②]