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【識者の眼】「妊産褥婦の自殺の問題点とその対策」久保隆彦

No.5027 (2020年08月29日発行) P.61

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-08-18

最終更新日: 2020-08-18

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妊産褥婦死亡統計における自殺の取り扱いが変更され、カウントされるようになったことは以前述べた(No.5000)。妊娠が持病を悪化させ産後に死に至ること、あるいは精神状態を悪化させ自殺することもよく知られた事実である。国立成育医療研究センターの森らのリンケージ法(死亡届とその1年前からの出生届の解析)によると、2015〜16年2年間の日本の妊産褥婦の自殺は92人であった。この解析法では産後1年以内の自殺は把握できるが、妊娠中の自殺については把握困難である。順天堂大学の竹田らによる東京都監察医務院の10年間の統計を用いた妊産褥婦の自殺解析では、産後1年以内の自殺は妊娠中の倍であった。この二つの報告から年間約70例の妊産褥婦の自殺が推定される。「産科原因」による自殺は母体死亡に含まれるが、母体死亡は年間約40例であることから、自殺が正確に報告されると著増する可能性がある。しかし、実際には妊産褥婦の自殺の届け出はこの2年間で1例と極めて少ない。

以前から、産後6週以降1年未満の後発妊産婦死亡が諸外国に比較し日本では極端に少ないことが指摘されていた。「女性を診れば妊娠を疑え」は従来から医学教育では良く語られているが、産後の女性の死亡を管理するのは大半が産科以外の医師であるため、女性の死亡を検案しても妊娠との関連に配慮することは少ない。

諸外国ではその対策として、死亡診断書に妊娠のチェックボックスを設置し、妊娠中あるいは1年以内に出産したか否かを確認している。20年以上前から私はこの方法の導入を日本産科婦人科学会内外で主張し画策していた。厚生労働省の池田班による妊産婦死亡の全例解析で自殺が多いこと、さらに、2017年から自殺が正式に妊産婦死亡にカウントされたことから、厚労省医政局医事課とも検討してきた。現在、死亡診断書の改訂作業が日本医師会副会長の今村聡先生を代表とする厚労省研究班で行われている。女性であれば「妊娠しているかあるいは1年以内に出産しているか」「その死亡は産科原因か」などのチェックボックスを設置する私案を提案し議論され、これをベースとしていくことが昨年承認された。

この死亡診断書の改訂が実施されれば、自殺を含めた妊産婦死亡の実数が初めて把握され、予防対策を立案するブレイクスルーとなるはずである。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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