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【識者の眼】「イナーシアのない地域連携が理想」細井雅之

No.5030 (2020年09月19日発行) P.56

細井雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)

登録日: 2020-09-07

最終更新日: 2020-09-07

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この数年、生活習慣病関連では「クリニカルイナーシア」「リバースクリニカルイナーシア」という用語が流行している(少なくとも講演会では)。前者は「適切なタイミングで効果的な治療に変更しないこと」、後者は「治療を緩める時期の遅れ」という意味だ。例えば、HbA1C 8.0%以上が1年近く続いているが、毎回患者さんは「運動頑張ります」と言って、同じ処方が続く。逆に、80歳の高齢で腎機能も低下してきているが、グリメピリド3mg内服HbA1C 6.2%で、患者さんから訴えがなければ「いい血糖です」と、そのままの処方で終わる。このような診療場面が時々起こってしまう。病診連携で診ている患者さんであれば、専門医が6〜12カ月毎には診察をして、注射療法への切り替えや、グリメピリドの減量を勧める。場合によっては、入院加療でインスリン製剤へ切り替える。そうすることで、Win-Winの関係を実地医家の先生と保てると信じてきた。

ところが、専門医が「治療強化をお勧めします」とか、「腎機能低下もあり、低血糖を危惧しますので、グリメピリド0.5mgへの減量をお願いいたします」と記載して診療情報提供書を実地医家の先生に郵送しても、中には、6カ月後も投薬が変わっていないケースがある。再度、診療情報提供書を郵送するのだが、「かかりつけ医の気を悪くさせてしまったか」と心配になるケースがある。さらに先日困ったのが、患者さん自身が「かかりつけの診療所を変えたい」と言い出すケースだ。確かにこちらが「薬を変えてもらいますね」と患者さんに伝えて手紙を送ったのに、薬が変わっていない、となると、患者さんもどうなっているのかと思うだろう。しかし、地域連携で患者さんをJターンで他の診療所へ紹介することは、禁じ手である。「紹介患者が返ってこない」とクレームが出てしまう。患者さんには「長年診てもらっていますからね」と同じ診療所へ行ってもらうか、「勤務先が変わったので、かかりつけを変えます」とでも、うそを言ってもらうしかないと思っている。

イナーシアのない地域連携ができるのが理想であると信じている。

細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)[病診連携⑤]

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