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【識者の眼】「いびつなインフルエンザ流行期の新たなCOVID-19対策事業」相原忠彦

No.5038 (2020年11月14日発行) P.55

相原忠彦 (愛媛県医師会常任理事)

登録日: 2020-11-06

最終更新日: 2020-11-06

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厚生労働省がインフルエンザ流行期に向けて新たな新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策事業を始めた。ところが、この事業は制度的に「いびつ」と思われる点が多い。

事業内容は発熱患者等専用の診察室(時間的・空間的分離を行い、プレハブ・簡易テント、駐車場などで診療する場合を含む)を設けた場合に、その経費を支援することにより、インフルエンザ流行期においても十分に発熱患者等に対応できる体制を各地域において確保するとされている。

最も大きい「いびつ」は医療機関、特に診療所(多くは医師一人)の診療時間が制限されることである。時間的分離の場合、発熱患者等の対応時間内は原則、通常の患者を診察出来ないことになっている。次々と発熱患者に対応しなければならない事態であれば仕方がないが、全く発熱患者が来院しない場合は診療しない無駄な時間が生じ、その結果通常の患者に迷惑をかける事態が想定される。おそらく現場では空間的分離を行い、通常患者を適宜診療することになると思われる。

次の「いびつ」は経費支援である。補助基準額は1万3447円×(受入時間に応じた基準患者数−実際の発熱患者等の受診患者数)である。体制確保料として支給される補助金額が一律ではなく、時間単位となっている。医師および看護師などの拘束時間の費用も当然含まれていると思われるが、実際の受診患者数に応じて減額される。減額の代わりに発熱患者がインフルエンザ等であれば、診療費を保険診療として算定し、COVID-19陽性であれば、公費扱いとなる。実際の診療費の請求が煩雑であり、多くの発熱患者を診療するほど体制確保料としての補助金額が減少する。発熱患者等専用の診察室等を設けたことに関する費用を一定額補助し、実際の診療における検査や薬物投与については別に算定請求するのが、分かり易く妥当であると思われる。

さらに通常医療においては経験しない、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)および新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)に必要な情報の入力が、不慣れな医療機関にとってはとても負担が大きい。

この前例のないいびつな事業を厚労省がどのように立案したのかは不明であるが、地域差(流行地域)も考慮しない全国一律の制度はインフルエンザ流行がない場合(南半球では流行はなかった)は無駄な出費と徒労に終わる事業となる公算が大である。

相原忠彦(愛媛県医師会常任理事)[新型コロナウイルス感染症]

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