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【識者の眼】「Go Toに感染拡大のエビデンスはないのか」渡辺晋一

No.5042 (2020年12月12日発行) P.58

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-11-30

最終更新日: 2020-11-30

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日本政府の新型コロナウイルス感染症対策は一貫して国民任せで、感染が収まっていないのにGo Toという感染拡大キャンペーンを開始した。政府は、Go Toトラベルが感染拡大の主要な原因だというエビデンスは存在しないと言う。しかし感染がわかった人数は、旅行業者が把握できたもので、利用者全員のPCR検査を行っているわけではない。実際に保健所の方はGo Toの感染者かどうかの調査をほとんどしていない。

そもそも旅行するだけでは感染しないと政府や専門家会議も言っているが、大部分の旅行者は旅行先で観光をし、また食事を楽しむのが普通である。ずっと自室に閉じこもる人は稀である。人が移動すれば、感染が拡大するのは医学の常識で、エビデンスがある。また消毒とマスクをすれば大丈夫と言うが、これらは感染のリスクを減らすだけで、食事の時にはマスクを外すし、マスクの素材や装着の仕方によっても感染のリスクの程度は変わる。実際に横浜のクルーズ船では、感染対策に入った医師が複数感染している。そのため医学知識が十分でない人に感染対策を押し付けるのは危険である。

またGo Toを利用する人は時間がある裕福な人が多いが、Go Toの原資は国民の税金である。経済のためと言っているが、経済的に困っている人は大勢いるので、利権目的のようにも見えてしまう。旅行業者を救うのであれば、宿泊業者など困っている人に直接お金を渡せば良いのではないだろうか。

既に本欄で何回も繰り返しているが、感染症対策の基本は①感染者の発見、②隔離、③治療である。しかし日本では感染者の発見に必要なPCR検査を絞っており、政府の医学専門家もこれに追随している。本来経済を回すためには、定期的なPCR検査をし、陰性の人で経済を回すべきであるが、今でも日本の人口当たりの検査数は世界でも非常に少ない。一方で、スポーツイベントでは、定期的なPCR検査をし、イベントを回している。

そもそも第一波で死亡者が多かったのは、37.5度の発熱が4日続かないとPCR検査を受けられず、重症にならないと治療を受けられなかったからである。しかし今でも日本の感染対策はクラスター対策で、感染源となる無症状の感染者を発見するPCR検査には後ろ向きである。その結果、感染経路不明の市中感染が増え、重症化率の高い高齢者にまで感染が拡大している。PCR検査や入院が遅れるとまた死亡者が増えるが、政府の方針は自助である。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

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