新型コロナ感染症に対する切り札と目されるワクチン。その開発が世界中で加熱している。そんな中、ワクチンに対する人々の認識について149カ国の調査結果がランセット誌に掲載された。それによると、日本人のワクチンへの信頼は世界で最低レベルであり、特に安全性に対する信頼が低いのが特徴であった。その論文の考察は、ヒトパピローマウイルスワクチンに関する副作用疑いケースの報道の影響だろうとしている。しかし、新型コロナでは受診とPCR検査の抑制政策などにより、保健医療への信頼を損なう結果になったと感じる人々も多いだろう。
WHOの挙げている世界10大健康脅威には、反ワクチン主義の拡大が含まれている。世界的にみると様々な団体がワクチンの副作用を強調し、ワクチンを接種すべきでないとしている。政党では、イタリアのあるポピュリスト政党がワクチン反対主義を唱えている。米国にはワクチンを否定する宗教集団がいる。実際に、これらの団体の反ワクチン活動の影響により、ワクチン接種率が低下している地域があり、そこでは予防可能な感染症が流行している。医療に対する不信感を政治や宗教に利用しているのだ。
ワクチンによる予防政策で重要なのは、有効性と安全性に加えて、信頼性である。新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験で、ワクチンの有効性と安全性が確認されたとしても、保健医療に対する信頼性が低いままだとワクチン接種に同意しない人々が多数出てくる可能性がある。ランセット誌に発表された調査結果からみると、日本人の中から反コロナワクチンを唱える団体が出てくることもありうる。
今回のパンデミックでは、インフォデミックが問題となっている。反ワクチン主義がインフォデミックに乗っかるリスクもある。ファクトに比べて、フェイク情報こそが蔓延しやすいことがわかっている。反ワクチン主義の脅威に対して、科学的エビデンスと道徳的正義を守るために我々医療者ができることは、フェイクを指摘してファクトを提供することだけでなく、信頼を回復する行動が必要であろう。