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車内への置き去りで死亡する[先生、ご存知ですか(88)]

No.5279 (2025年06月28日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2025-06-26

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暑い日が多くなってきていますが、自動車内に子どもが置き去りにされて死亡するという痛ましい事態も発生しています。車内に子どもを残したまま買い物やパチンコに行く、幼稚園や保育園の送迎バスから子どもを降ろすのを忘れる、という状況が生じています。

外気温が35℃の夏に、車内温度25℃であった車がエンジンを停止させたとします。窓を閉めた状態ですと約15分で車内温度が40℃を超え、最高では50℃以上になります。容易に熱中症や脱水に至り、最悪の場合は命を落とします。

安全装置の設置義務

2023年に、ある民間企業が子どもの車内置き去りに関する実態調査を行いました。「1年以内に子どもだけを残して車を離れた経験がある」と回答していたのは、幼稚園・保育園で送迎を担当する運転者のうち1.5%、小学生以下の子どもを乗せる一般運転者のうち20.4%にもなりました。

このような状況を受けて、2023年4月1日より、幼児等の所在確認と送迎用バス等への安全装置の設置が義務化されました。すなわち、全国の幼稚園・認定こども園・保育所・特別支援学校などの送迎バスに対して、以下に紹介する安全装置の設置を義務づけました。装備の導入に対しては市区町村から補助が出ます。安全装置の設置義務違反をした場合、その施設は業務停止命令の対象となります。

この義務化を受け、国土交通省では安全装置に関するガイドラインで、安全装置の要件を定めました。エンジン停止後、運転者等に車内の確認を促す警報を発し、運転者等が置き去りにされた子どもがいないか確認しながら車内を移動し、車両後部の装置を操作することで警報を解除するというものです。もし、確認と装置の操作が行われないまま一定時間が経過すると、車外向けの警報が発せられます。また、エンジン停止から一定時間後にセンサーによって車内の検知が行われ、置き去りにされた子どもを検知した場合、車外向けの警報が発せられるタイプもあります。

介護や医療の現場でも

子どもだけでなく、介護サービス等を受けるべく、高齢者が自動車で日々送迎されています。少子高齢化が進むわが国では、今後、送迎を受ける高齢者が増えていくでしょう。残念なことに、高齢者が車内に置き去りにされて死亡する例も散見されます。特に認知症の人や、車椅子利用者などでは、自力で脱出することができないことがあります。また、事故を予防するために、運転席以外ではドアの解錠ができないチャイルドロックがかけられていることもあります。

したがって、我々が関わる介護や医療の現場でもこのような事故は起こりうるのです。これに対して、安全装置の設置を促す取り組みもあります。東京都では介護サービス事業所送迎バス等安全対策支援事業において、予防対策を講じた際の支援を行っています。介護サービス事業所が安全装置を新たに設置した場合に、かかる経費を補助しています。

装置による安全対策も重要ですが、利用者である高齢者をファーストに考えることこそ、忘れてはならないと思います。

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