「喀血が続き、都内の大学病院2件で診察を受けましたが、気管支動脈塞栓術は脊髄梗塞のリスクが高く、救急車で運び込まれない限りできないと言われました。状態は徐々に悪化し、四六時中喀血を繰り返し、いつ喀血が襲ってくるかわからないため、一晩中ソファーにもたれて過ごしました。喀血の都度、後始末をしていた女房も不安と悲しさで耐え切れなかった、とあとで聞きました。ネットで貴院を発見し、思わず『助かった!』と叫びました。(中略)手術日の未明には私のベッドに4~5体の死神が近づいてくる幻を見たほどでした。私と目が合って、彼らは一列になってドアの隙間から消え去っていきました。病院にいなければ、きっと自宅で死神にとりつかれていたのではないかと身震いを禁じ得ませんでした。(中略)30分未満の気管支動脈塞栓術で地獄から天国に解放されました。本当に喀血は完治したのだと思うと、心の底からうきうきとした気分が体いっぱいに広がってきて『平和な日々が戻ってきた!』と大声で叫びたくなりました」。
東京在住のOさんから頂いたお手紙である。喀血に対するカテーテル治療である気管支動脈塞栓術を四半世紀もやっていると、感謝のお手紙を頂くことは多いが、喀血患者の苦悩と解放を、これほど生き生きとした文学的な筆致で描写して下さったのは初めてである。
この手紙に現代の喀血診療の問題点がすべて凝縮されていた。これほどに喀血の苦しみは残酷で、気管支動脈塞栓術は喀血患者を安全に治癒させることができるのに、少なからぬ呼吸器内科医や放射線科医は、重大合併症である脊髄梗塞への誤った古くさい恐怖感からなかなか解放されない。累計3800例、世界一のハイボリュームセンターである当院で、脊髄梗塞は一例もないのである。
このような「気管支動脈塞栓術による喀血患者のQOLの改善」という、我々が日常的に経験しているclinical questionを2020年に論文化し、European Radiologyに投稿した。2024年末には、日本呼吸器内視鏡学会から喀血診療指針が発表された。2025年3月には、日本医事新報社から『ssBACEマスターノート』という技術書を出版した。気管支動脈塞栓術の安全性と有効性を、あらゆる媒体を使って広報していくのが我々の重大な使命である。