No.5048 (2021年01月23日発行) P.57
堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)
登録日: 2021-01-08
最終更新日: 2021-01-08
新型コロナウイルス感染症の脅威が再び強まっています。最前線で働かれている関係者の皆様の労苦には心からの尊敬と感謝の思いをお伝えします。精神科の開業医が出来ることは少なそうですが、東日本大震災と原発事故が地域社会に長期的に与える影響を体験したことから今回の記事を書かせていただきます。
災害が与える心理的な影響としてはうつ病やPTSD、アルコール依存症などが指摘されています。今回はさらに、「うつ」ではなく「躁」にも注意が必要なことを強調したいのです。躁状態では意欲や気分が高揚し、考え方が楽観的に(浅薄に)なるのと同時に注意力が散漫になっています。不安や恐怖を感じることがあっても、「それは大したことではない」と脅威を否認することで、活発に動き続けることができます。災害後のような「火事場」では、躁状態は必要で正常な反応という面もあるので、特に初期には異常と認識されることはなく、逆に奨励されていることが少なくありません。
現場で優秀でまじめな人が、長期間にわたって多くの役割を果たすことを期待され続けるのに対して、自分を軽い躁のような状態に持って行って頑張り続けることを頻繁に目にします。残念ながら、そういう人物に交代で休みを取らせるようなシステムを作ることに関心が低い組織が多いようです。同じ人にずっと負担がかかり続ける結果(それは半年かもしれませんし、3年かもしれませんし、10年かもしれません)、どこかで心身の不調が出現する可能性が高くなります。現場のモラルや道徳心に過剰に訴えるのは危険です。中長期的に継続することを念頭に置いた合理的なシステムをいかに構築するのか、ということにもっと関心が向けられてほしいと思います。
躁的な心の問題点として他には、「つらさは大したことがない」という認識が自分から他人に置き換えられると、その対象についてものすごく辛辣な評価をしてしまう点があります。特に「現場の道徳」に注目が集まっている所にそのような心性が付け加わると、「悪者」にされた人への強烈な攻撃が生じます。これも、注意して減らしたいところです。
堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]