No.5049 (2021年01月30日発行) P.52
浅香正博 (北海道医療大学学長)
登録日: 2021-01-14
最終更新日: 2021-01-14
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して政府は、感染者の増加傾向の止まらない東京と大阪周辺などに緊急事態宣言を再び発した。わが国の感染者数は30万人に達し、死者数も4000名余に増加した(1月13日時点)。いずれも昨年3月の第一波からみると大幅な増加を示している。第一波の時にはほとんどわかっていなかったこの感染症の特色がこの数カ月間でずいぶん明らかになってきた。それにも関わらず、感染者数が激増していることに不安を持っている方々が多いのではないかと推察される。予防に関しては、マスクの重要性が世界中で評価され、世界保健機関(WHO)も積極的に推奨するようになった。人への感染を防ぐことが最も重要なマスクの役割であるが、自分自身の感染予防にも有用であることが明らかになってきている。ただテレビに出ている司会者や芸能人らが付けているマウスシールドにはこのような予防効果がほとんど見られないことがわかっている。マスクより映像に向いているという理由でマウスシールドを付けてテレビに出ることにより、一般の人たちがまねをしてCOVID-19を広めることにもなりかねない。要注意事項と思われる。
COVID-19の感染可能期間は症状の発現する2日前からであることが明らかになったのに、現在でも症状の有無や発熱をCOVID-19の重要な所見としてチェックしていることはほとんど意味がないように思える。近頃、20代の感染が増え、若者に対する風当たりが強くなってきているが、彼らに対するCOVID-19診断に自覚症状チェックだけでは十分ではないと考えるのが妥当であろう。そのため、私の勤務している北海道医療大学では臨床実習で病院に行く前の学生全員にPCR検査を義務づけている。そうでないと実習病院が安心して受け入れてくれないのである。これまで800人以上の学生がPCR検査を受けているが、幸いにも陽性者は1例も出ていない。PCR検査が診断に重要であると同時に、抗体検査は感染の経過観察に重要と思われるが、抗体検査についてのビッグデータがわが国では発表されていない。我々が札幌の繁華街の従業員について調べた結果では、PCR陽性者は感染が落ち着くと抗体が検出されるが、PCR陰性者では抗体が検出されるケースは稀である。したがって自然免疫獲得によって新型コロナウイルス感染が落ち着いてくるまでにはまだ相当の時間がかかるものと考えている。わが国で第一波の時に得られた知見を生かした対策が十分行われていないことに心配をしている。
浅香正博(北海道医療大学学長)[新型コロナウイルス感染症]