No.5049 (2021年01月30日発行) P.63
中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)
登録日: 2021-01-18
最終更新日: 2021-01-18
ある村に80歳になった3人のお婆さんがいた。この村に生まれ育って嫁に行き、老境に至った。子どもの頃からの仲良し組で、今でもしょっちゅう集まってはお喋りに興じている。実は、若いころからの仲間にはもう一人いた。この彼女は70歳で寝たきりとなって、友のことは勿論、最後には娘や孫のことも判らなくなって亡くなったのは一週間前のことだ。亡くなったDさんのことを思い出しながら、「そろそろ、お迎えかなあ…でも、楽しかったなぁ」とAさんが言った。皆は「ほんと、ほんと」…と声を揃えた後、Bさんが付け加えた「元気なうちに、お迎えが来たら良いんだけど…息子や嫁に迷惑はかけたくないからなぁ」という一言に頷いた。
ある夜更けに、家族も気付かないままにBさんはこの世を去っていた。何かの発作らしかったが、AさんとCさんは悲しみながらも、Bさんの望みどおりの最期だったとどこか納得した。「私たちも、Bさんみたいに…」と考えた二人だが、一人残されるのも嫌だな…と密かに思ったらしい。そして2カ月の後、道路を渡っていたAさんは、前方確認を怠った自動車にはねられて即死した。一人残されたCさんには、急に衰えがやって来た。寝たきりとなって認知症も進行したが、生来丈夫であったこともあり、その後88歳で大往生された。
さて、本論に入ろう。PPKとNNKは、「ピンピンコロリ」と「ネンネンコロリ」の略である。Bさんは典型的な前者であり、議論はあるとしてもAさんもこの範疇に入る。一方、CさんとDさんは、明らかに後者である。
他の3人に比べて、Dさんの健康寿命は明らかに短い。PPKとNNKの概念を持ち出さずとも、Aさん、Bさん、そしてCさんは、Dさんよりも望ましい生を送ったと直感的にいえるだろう。しかし、80歳まで見かけ上は健康に過ごしたことで、残る3人の生は等価なのだろうか。それとも、NNKのCさんの生は不幸なのだろうか。…つづく。
中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]