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【識者の眼】「外来診断訴訟の高リスク:急性冠症候群」徳田安春

No.5052 (2021年02月20日発行) P.56

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

登録日: 2021-01-19

最終更新日: 2021-01-19

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医療訴訟を診療科別にみると、産婦人科に次いで多いのは循環器科である。そのうち、最も多い訴訟疾患は、急性心筋梗塞と不安定狭心症、すなわち急性冠症候群。産婦人科の場合、最初からその科を受診することがほとんどなので、産婦人科以外の医師が関係することは少ない。しかし、急性冠症候群の患者の場合、循環器科以外の医師を受診することが多く、多くの外来診療医が急性冠症候群の外来診断訴訟の可能性を背負うことになる。

見逃しのプロセスで多いのが、問診と心電図解釈である。急性冠症候群の三大症状は、胸痛、嘔吐、冷汗。しかし、最近増えているのが、無痛性だ。その背景因子は、高齢者、女性、糖尿病、喫煙者であり、多くの患者が無痛性で登場すると考えた方が安全である。無痛性では、嘔吐または冷汗を認めることがあるので、原因不明の嘔吐または冷汗をみたら急性冠症候群も考える。また、狭心症同等症状群(angina equivalents)という症状を呈することもあり、これは労作時の息切れや倦怠感、めまい、心窩部痛、下顎痛、腕や肩の痛み、などだ。

不安定狭心症の時、症状のない間欠期では心電図正常のことがある。異常心電図ではST変化、特にST上昇に気をつけるが、ST上昇のないST上昇型心筋梗塞同等(STEMI equivalents)心電図パターン群が見逃されやすく緊急性が高いので重要。

最近、著者が経験したケース(60代女性、危険因子なし、昨日のみの労作時息切れ、歩行受診、バイタルサイン正常)の心電図を示す。STEMI equivalentsの心電図パターンのうち、Wellens症候群を疑う所見であった。トロポニンも上昇しており、緊急でカテーテル検査で左前下降枝に高度狭窄を認め、ステント治療を行ってもらった。

他のSTEMI equivalentsには、de Winter症候群、後壁梗塞、hyperacute T、左脚ブロックパターンなどがある。急性冠症候群を見逃さないためには、angina equivalentsとSTEMI equivalentsに気をつけてほしい。

【参考文献】

1) 徳田安春:Dr.徳田の診断推論講座〈第2版〉. 日本医事新報社, 2020.

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断推論]

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