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【識者の眼】「ABO血液型不適合腎移植においてなぜ超急性拒絶反応は発生しないのか」高橋公太

No.5056 (2021年03月20日発行) P.62

高橋公太 (新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)

登録日: 2021-03-08

最終更新日: 2021-03-08

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一つの誤った既成概念が定着すると、その概念を覆すには並みはずれた努力と時を要する。その例としてコペルニクスの地動説がよくあげられる。

ABO血液型不適合移植も同じような歴史を辿ってきた。1901年にKarl Landsteinerがヒトに血液型があることを発見して以来、約1世紀にわたり「ドナー臓器の血管内皮細胞表面にあるABO抗原とレシピエントの血中にある抗A抗B自然抗体が反応して超急性拒絶反応(HAR)が発生し、ただちに機能廃絶する」と言われ、免疫学的禁忌とされてきた。

この免疫の壁に挑んだのが、ベルギーのAlexandreである。移植前に抗体を除去し、移植時に抗体を産生する脾臓を摘出し、免疫抑制療法を施行した。数十例の成功を収めたが、欧米諸国では死体腎移植が主流を占めていたので、普及しなかった。

わが国では死体腎移植が極端に少ないので、生体腎移植の拡大を目的として我々は、1989年に初めてこの移植を成功させた。筆者がこの既成概念とそれに基づいたAlexandreの原法の誤りに気づいたのは、この移植を数十例実施してからである。ある日、ふと「我々はAlexandreの原法を踏襲して移植を実施してきたが、移植前にHARの原因となるレシピエントの血中にある抗体を完全には除去できない。その後も抗体は産生されるので、抗体がゼロになることはない。それなのになぜHARは1例も発生しないのか」という疑問がわいた。

その答えは意外と単純な理由だったが、筆者が指摘するまで誰も気づかなかった。本来、ABO式組織型抗原とABO式血液型抗原は似ているが異なった2種類の抗原である。ABO式組織・血液型抗原を、一つの抗原として扱ってきたことが誤解の始まりである。

ABO式組織型抗原=ABO式血液型抗原ではなく、ABO式組織型抗原≒ABO式血液型抗原、したがってそれに対する抗体もABO式組織型抗体≒ABO式血液型抗体である。レシピエントの血中にある抗A抗B自然抗体はABO式血液型抗体であり、赤血球の表面にあるABO式血液型抗原とは反応し溶血するが、移植臓器の血管内皮細胞の表面にあるABO式組織型抗原とは反応しない。すなわちHARは発生しない。当然、移植前の抗体除去も必要ないことになる。

血液型は本来、我々一人一人のアイデンティティーを示す証であり、人類の生命の根源である。こんな身近な存在でありながら、ABO血液型不適合腎移植を実施しなければ、当然の真理と考えられていた理論の間違いに誰も気づかなかった事実に驚きを感じる。

【参考文献】

▶Takahashi K, et al:Transplant Proc. 1991;23:1078-82.

▶高橋公太:移植. 1998;33:145-60.

▶Takahashi K:ABO-incompatible kidney transplantation Elsevier Science. 2001.

▶Takahashi K:Am J Transplant. 2004;4:1089-96.

▶Tasaki M, et al:Transplantation. 2009;87:1125-33.

▶Takahashi K, ed:ABO-incompatible kidney transplantation Elsevier. 2015.

▶高橋公太:日本臨床腎移植学会誌. 2020;8:197-216.

高橋公太(新潟大学名誉教授、日本臨床腎移植学会元理事長)[腎移植①]

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