No.5059 (2021年04月10日発行) P.61
並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)
登録日: 2021-03-25
最終更新日: 2021-03-25
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生が医療機関の受診に影響のあったことは、臨床に携わっている先生は、大なり小なり感じていると思います。第1波の2020年5月は、前年同月比19%減の受診抑制があったと聞きます1)。特に小児科と耳鼻咽喉科は落ち込みが多かったのは皆さんのご存知の通りです。
漢方治療を標榜する診療科も例外ではなく、前年比20〜30%程度減の受診抑制がありました。電話再診などが許可されたこともあり、処方日数が伸びたことによる影響などでした。
今回ご紹介したいのは、COVID-19の流行以降、地域の診療所などで使用された漢方薬がかなり変化したことです。なお、ここで紹介する変化は正確な数値ではなく、複数のメーカーの方から聞いたものであることを最初にお断りしておきます。
まず、使用が減少したのは、感冒・インフルエンザに用いる漢方薬です。手洗いの徹底とマスク着用が順守されたおかげで、例年にくらべインフルエンザ予防が徹底された形になっているようです。厚労省のインフルエンザの定点報告を見ると、COVID-19の流行前の1週当たりの報告数(2018/19シーズン)はピーク時57.09に対し、2020/2021年のシーズン最後の週では、0.01と激減しておりました2)。恥ずかしながら、インフルエンザの予防に手洗いがこんなに有効であることに今更ながら驚いています。同様に感冒なども減っているようで、その影響でインフルエンザに用いる麻黄湯をはじめとして、感冒のための漢方薬の出荷数が落ちているとのことでした。
一方、使用が増加したのは、マスクによる肌荒れに対する処方でした。最近、マスクによる肌荒れで皮膚科に多くの方が受診していると聞きます。この原因は、長時間のマスク着用による蒸れや物理的な擦れなどが考えられます。マスクの大きさを調整するなどの工夫が必要でしょうが、それでも治らない場合は塗り薬が使われ、さらに必要なら内服薬として漢方薬の出番となり、以前に比べて使用が急増したわけです。今後も数年間はマスクが必要という意見もあるので、一過性の現象ではないのでしょう。
時代の変化がこのような一つの小さな現象に出てきています。疾病構造が変わったというには大袈裟ですが、こんなところにもCOVID-19の出現による意外な影響が出たのだと感じた次第です。
【文献】
1)医療情報総合研究所プレスリリース(2020年9月15日)
[https://www.jmiri.jp/files/topics/20200915_Notice.pdf]
2)厚生労働省:インフルエンザの発生状況について(2021年3月12日)
[https://www.mhlw.go.jp/content/000752481.pdf]
並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方薬]