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【識者の眼】「健康食品、価格が高いほど効果も高いのか?」大野 智

No.5064 (2021年05月15日発行) P.63

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2021-04-27

最終更新日: 2021-04-27

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「健康食品は価格の高い方が、よく効くのでしょうか?」

患者から、このような質問を受けることがある。結論から言えば、商品の価格と効果との間に相関関係・因果関係を証明した研究は、筆者の知る限り報告されていない。

具体的な相談例として、1日1000円程度のプロバイオティクス製品について利用の可否を患者から尋ねられたことがある。プロバイオティクスに関しては、表在性膀胱癌患者を対象とした乳酸菌シロタ株(Yakult)による再発予防効果を検証したランダム化比較試験の報告1)などがある。ちなみに臨床試験で使用された乳酸菌製剤と同菌数を摂取しようとすると「ヤクルト400」を1日1本程度(80円)でよい2)。なお、臨床試験で得られた知見の一般化可能性(外的妥当性)を検討する際、対象者の背景、介入方法・期間などを慎重に吟味する必要がある。短絡的に「10倍の価格の“プロバイオティクス(別商品)”を利用したとき10倍の効果が得られる」と考えてよいものではない。

では、このような科学的事実を説明さえすれば、患者は理解・納得し合理的に最適な判断をするのであろうか? 人は、商品やサービスの価格が高いとその価値も高いと感じ、その結果、需要が高まるという「ヴェブレン効果」と呼ばれる心理効果がある。読者の先生の中にも、当直業務の疲労回復目的に栄養ドリンクを購入しようとした際、100円より1000円の商品の方が、効果が高いのでは? との考えが頭をよぎったことはないだろうか(筆者は飲み比べをしたこともあるが残念ながら効果の違いは実感できなかった)。

以前(No.5015)、補完代替療法の問題点として「健康被害」「経済被害」「機会損失」を挙げ、経済的トラブルが件数としては最も多いことも紹介した。患者からの相談に際しては、科学的事実を情報提供するだけでなく、人が持つ心理的側面にも配慮しながら対応する必要があると考える。

補足:筆者と株式会社ヤクルト本社との間に公開すべき利益相反(COI)はない。

【文献】

1)Naito S:J Urol. 2008;179(2):485-90.

2)ヤクルト400 [https://www.yakult.co.jp/products/item0007.html

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑰]

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